ミシュランシェフ・鳥羽周作「美味しい」を追求する料理とは!?(第1回)
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ミシュラン1つ星レストラン「sio」のオーナーシェフの鳥羽周作さんが、いま飲食業界にイノベーションを起こしている。「sio」はフレンチからイノベーティブレストランに、イタリアン、パーラー、居酒屋、すき焼きレストランなど多岐にわたる店を展開し、いずれもオープンするや予約で満席状態。第3回は、そんな経営者としても異才を発揮する鳥羽シェフに、事業構想を聞いた。

取材・文=加藤恭子 撮影=山下亮一

飲食店は「ショーケース」

 飲食店は、儲からない——。

 いま、そんな飲食業界が抱える慢性的な課題に、ミシュラン1つ星レストラン「sio」の鳥羽シェフは挑んでいる。

「コロナ禍に直面して、あらためて気づかされたのが飲食店経営の問題点です。そもそも従来の飲食店のあり方が儲からない。その課題に本気で立ち向かわなければならない、という意識をよりいっそう強くもちました」

 飲食業で儲けを出そうと思ったら、選択肢はたった2つ。食材などの原価を下げるか、人件費を抑えるしかない。たとえば2人分の仕事を1人に任せ、いわゆるワンオペで人件費を浮かす。あるいは1か月の売り上げ目標を達成するために、スタッフの休日を削って勤務日を増やすという選択肢もあるだろう。しかし、それではみんなが「ハッピーにはなれない」。そこで鳥羽シェフは、決断した。

「飲食で儲けない、と決めました。でも、最終的には飲食で儲かる仕組みです。従来、飲食店と会社は一体でした。つまり、飲食店の売り上げが悪い=会社の業績が悪いという状態。それを無理やり乗り切ろうとすると、従業員の過重労働や料理の質の低下を招いてしまいます。それでは解決になりません。そこで僕らはあらゆる飲食ビジネスを請け負う会社を立ち上げ、飲食店をそのショーケースとして位置づけました」

2021年4月、クリエイティブパートナーに博報堂ケトルを迎えて設立したシズる株式会社が、その大きな一手。レシピ開発からデザイン、PR、レシピ開発などあらゆる飲食ビジネスの課題を解決する食のクリエイティブカンパニーだ。

 飲食店はショーケースであり、食の感動体験を提供するアウトプットの場。店舗ではなく、会社のほうを軸としてECサイト、プロデュースやコンサルティング、オンライン料理教室など多岐にわたる食にまつわるビジネスを展開し、利益を出していく。会社全体で収益を上げることをめざすため、店舗だけに過重な負担がかからなくなる。

 とはいえ、もちろん飲食店で利益を出せれば理想的。2021年10月、架空のホテルをイメージして表参道にオープンした新形態レストラン「ホテルズ(Hotel's)」は、料理やしつらえなどあらゆる面でのクオリティの高さとともに、飲食店の収益の可能性にも挑んでいる。

「予約がとれないということが極力ないよう、ホテルズは朝昼夜3部制営業としています。また、オープン当初からテイクアウトとデリバリーに対応するための設備を設置。たとえば夜中にケーキを仕込んでECサイトで販売するなど、より広い面で収益を上げやすいように工夫しています」

 鳥羽シェフがいなくても店をシフトで運営できるのは、すでにほかの店舗も同じ。あえて鳥羽シェフが厨房に入らないことで、飲食店がもつ可能性を最大限に引き上げることを追求している。ラウンジのようなカジュアルな雰囲気でありながら、ミシュラン級の料理を楽しめるホテルズは、従来はあり得ないようなハイクオリティ店のフランチャイズ展開の可能性も視野に入れている。

「僕らはレストランの料理からファストフードまで、あらゆる食をよりおいしくするための知識、技術を蓄積しています。たとえばいつものサラダは野菜の切り方を変えるだけで、クオリティがグッと上がるかもしれません。目標はただひとつ。あらゆる食の場面に関わる食のプラットフォームとなり、世界平和につなげることです。おいしい料理で世界をハッピーにする。そのためだけに走り続けています」

鳥羽周作 (とばしゅうさく)
「sio」オーナーシェフ。1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界に入る。2018年オープンの代々木上原「sio」はミシュラン一つ星を3年連続獲得。業態の異なる6つの飲食店を運営。店のレシピを公開した #おうちでsio が話題になる。『幸せの分母を増やす』がモットー。

(加藤 恭子)