文=甲斐みのり 撮影=平石順一

詩情に満ちた手作りバターサンド

 ひとつひとつそれぞれが、異なる趣をたたえた味わいはもちろんのこと、名前、香り、色と形、パッケージ、素材の組み合わせの妙まで全てが、詩情に満ちた〈積奏〉の手作りバターサンド。新たに発売された昨年秋に初めて口にしたそのときから、たちまち心を奪われて、忘れられない存在となった。

 特製型を使ってぽってりしっとり焼き上げられたサブレ生地の間で層をなすのは、北海道産のバターとクリームチーズを合わせた、なめらかな特製のバタークリーム。一般的なものより水分値が低くより濃厚なバターを、ふっくら空気を含ませながらしっかりホイップすることで、深いコクを残しながらも口溶けがよく軽やかな食感に仕上がるという。

 主に使用している素材は、バター、チーズ、果物、木の実、チョコレート。

 スリランカ産のアールグレイ茶葉と新鮮なレモンピールを練り込んだバタークリームに、キャラメリゼしたクルミを合わせ、アールグレイ味のサブレにはさんだ「アールグレイシトロン」。

 ローストしたクルミとラム酒を合わせた白いちじくのコンポートを練り込み作る2層のバタークリームに、バルサミコ酢で煮込んだ白いちじく、クルミ、ピンクペッパーをトッピングし、塩味をきかせたサブレと合わせる「白いちじくのグラッセ」。

 こんなふうに、全部で12種類ある味の素材や組み合わせを辿るだけでも、ちょっとした短編を読んでいるようだ。定期的に新しい味が登場するのも、積奏という物語の番外編のような楽しみがある。

 イラストレーターの山口洋佑さんが描く「海」「森」「街」をテーマにした小箱も、いつまでも残しておきたい情趣に満ちたすばらしいデザイン。それぞれの箱の中には、3テーマに分かれたバターサンドが、各4つずつ入っている。

 あらかじめ冷凍したバターサンドがクール宅急便で届くので、冷んやり具合も好みに合わせて調整できる。「冷凍」「解凍」「少し時間を置く」。3つの食べ方で風味や食感が変化するのも、このお菓子のおもしろさ。

 私の場合、少し時間を置いた風のセットは、コーヒー入りの水筒を携え、新緑そよぐ緑豊かな近所の公園で。春の風にバターを溶かしながら、なめらかなクリームを頬張った。

 解凍した波のセットは、久々の再会を果たした友の家で語らいながら。会えずにいた時間を埋め合わせるように互いの日々を伝えつつ、バターや木の実や果物の香りや甘さに包まれて。

 冷凍したままの虹のセットは、真夜中の寝室で映画を観ながら。ひんやり冷たくアイスケーキのような贅沢な風味と食感を、物語の世界とともに酔いしれた。

(甲斐 みのり)