マセラティ初のSUV『レヴァンテ』は、全長、全幅、全高がそれぞれ5,020mm、1,985mm、1,680mm、ホイールベース3005mm。これに対して第2弾『グレカーレ』は4846-4859mm、1948-1979mm、1659-1670mm、2901mmとちょっと小さい。アルファ ロメオ『ジュリア』と同じプラットフォームを利用し、セグメント的に言えばD。ポルシェ『マカン』がこのクラスではベンチマークといえるだろう。

新時代を迎えたマセラティはここにどんなアプローチで挑んできたのか? 『MC20』に続き『グレカーレ』への試乗から、今後のマセラティを占う。

プロトタイプは理想的な仕上がりを見せいていた

 2021年11月、新型コロナウィルス感染症のため入国にも出国にもまだPCR検査が必要で、帰国後も最低10日間の隔離期間が求められていたこの時期、私はマセラティの招きに応じてイタリアを訪れた。

 その目的は、正式発表を間近に控えたグレカーレのプロトタイプに試乗することにあった。ちなみに、このテストドライブに日本から招かれたのは私ひとり。ヨーロッパから招かれたメディア関係者もごくひと握りだったようで、会場は(感染症対策の意味もあったのだろうが)閑散とした雰囲気だった。

 しかし、このときFCAのバロック・プルービンググラウンドで味わったグレカーレ・プロトタイプはお世辞抜きで素晴らしかった。とにかく、乗り心地にゴツゴツしたところがないのにステアリングが恐ろしく正確で、サスペンションの動きにも一切遊び(一般的にコンプライアンスと呼ばれるもの)は感じられない。しかも、ボディ剛性が驚くほど高く、おまけに足回りから振動が加わったあとの収束が素晴らしく良好。ある意味、私が理想と描くハンドリングと乗り心地に限りなく近かったのだ。

世界トップクラスの商品力

 その後、製品版のグレカーレにもイタリアの一般道で試乗したが、基本的な印象はプロトタイプとまったく変わらなかった。やや惜しいと思ったのは、エンジン・サウンドが色気に欠けるのと、たとえばポルシェ『マカン』に比べるとインテリアの素材感で一歩及ばないことくらい。それでも、イタリアらしい洒落た造形と色合いで差し引きすれば、ポルシェのロングセラーSUVとも十分に勝負できるとの感触を得たくらいだ。

 それにしても、なぜマセラティはグレカーレを商品化したのか? 同社で車両評価担当を務めるフェデリコ・デ・メディオに訊ねた。

「マセラティに相応しいラグジュアリーな製品を世に送り出したいと思いました。ご存じのとおり、マセラティは激戦区のSUVセグメントにも参入していますが、すでに投入済みのレヴァンテだけでなく、複数のモデルでSUVセグメントをカバーすることにしたのです」

 ここで彼らにとって幸運だったのが、“ジョルジョ”という名の優れたプラットフォームがグループ内にすでに存在していたことにあった。

「ジョルジョ・プラットフォームのおかげで、私たちは妥協を強いられずに済みました」とデ・メディオ。「このプラットフォームは、先進的な設計のため極めて軽量で、しかも優れた捻れ剛性を誇っています。開発目標を達成するうえで、どのプラットフォームを使うかは極めて重要です。ジョルジョ・プラットフォームを使っていなければ、ハンドリングと乗り心地の面で妥協を排するという私たちの目標は達成できなかったかもしれません」

 ちなみにジョルジョ・プラットフォームは、同じステランティス・グループのアルファロメオ『ジュリア』に採用されてデビューした後、同ブランド初のSUVである『ステルヴィオ』にも用いられた。その当時から“ジョルジョ”が非常に強固なプラットフォームであることは明らかだったが、シャープなハンドリングを生み出そうとするアルファロメオの思惑により乗り心地は硬めで、とりわけ路面からゴツゴツとした印象を伝える点が私は苦手だった。

同じプラットフォームとはいえマセラティが使えば別物

 ところが、グレカーレの足回りはジュリアやステルヴィオとは別物のしなやかさを備えており、路面からのゴツゴツ感もほとんど気にならない範囲。それでいて、アルファロメオと互角の正確なハンドリングを手に入れていたのである。

 この点を指摘すると、デ・メディオは次のように答えた。

「アルファロメオとマセラティではブランドの立ち位置が異なります。アルファロメオのヒストリーはレーシングにあり、そのキャラクターはスポーティ。いっぽうでマセラティにもレーシングのヒストリーはありますが、よりラグジュアリーなブランドなので、快適性とスポーティさを両立しなければいけません。私たちは、顧客が期待するそういった特性を実現するために努力しました」

 このため、ジョルジョ・プラットフォームにも大幅な改良を行なったという。

「“ジョルジョ”を使ったのは始まりに過ぎません。私たちは、その特性をマセラティにあわせるためのモディファイを行ない、ほとんどのキャラクターを変更しました」

マセラティ新時代にも期待が高まる

 かつてフェラーリ傘下にあったマセラティは、やがてFCAの一員となり、いまではさらに大きなステランティス・グループに属している。ただし、同グループで唯一のラグジュアリーブランドであるマセラティに対しては、グループのメンバーでありながら一定の独立性も認められているようだ。

 こうした環境が『MC20』、『グレカーレ』と続く、製品の劇的変化を招いたと私は推測している。

 マセラティ内部に「よりマセラティらしく、そして妥協のないクルマ作りをしたい」という思いはもともとあったはず。しかし、親会社の都合で思ったような予算を確保できず、そのしわ寄せが製品のクォリティ面などに表れていたというのが、これまでのマセラティだったと私は見ている。

 しかし、ステランティスの一員となって、状況は大きく変わった。今後は潤沢な資金、そして豊富な技術力を生かして、マセラティの技術者たちが思う存分、腕を振るうようにできるのではないか。

 その試金石となるのが、間もなく登場する『グランツーリスモ』とそのオープン版である『グランカブリオ』だろう。MC20に続いて独自開発のプラットフォームを採用する2台の仕上がりを見れば、彼らの真の実力が明らかになるはず。マセラティの今後が、いよいよ楽しみに思えてきた。

(大谷 達也)