(文:峰尾 健一)

 実際にテロ組織に加入しようとする若者を引きとめたり、社会への復帰を支援したりといった活動を行う「イスラム系セクト感化防止センター(CPDSI)」の創設者によって書かれた一冊だ。

 著者はセンターを創設した2014年4月から2015年末までに、1134人の若者を支援してきた。活動の現場で目の当たりにした事例と、得られた知見がまとめられたのが本書である。著者らは相談者である親と連携し、子どものパソコンの中身や録音された電話の通話内容を調べ、親子との会話内容なども分析し、組織による洗脳や取り込みのプロセスについて事例を収集してきた。

 子どもが過激思想に感化されていくことに困り果てた親たちの相談を受けてきた経験から、組織に取り込まれつつある若者の家庭での振る舞いが、どのように変化していくのかについて細かく書かれている。

 洗脳が進むにつれ次第に、若者たちは組織が説くところの「宗教的実践」に従い始める。我が子の変化に戸惑う親たちの証言を引いてみたい。

“──娘は「いままでの友達は“真実のなかにいない”」と言って、彼らと話さなくなりました。”

“──「直角を描くのは、イスラムに反対するシオニストや十字軍の陰謀の一種だ。なぜなら心の中に十字を植えつけるからだ」と言って、息子は学校に行きたがりません。”

 イスラムの偶像崇拝禁止の教えを「ムスリムの周囲には何ひとつ偶像を置いてはいけない」という意味にすりかえる主張に影響された若者の話もすさまじい。

“──ある日、仕事から帰ると、アパートは空き巣に入られたような状態でした。息子は飾っていた絵を全部はずし、カーテンもはずしていました。人間や動物の絵や、その形をかたどった置物や装飾品もすべてなくなっていました。モロッコ製のじゅうたんに描かれたラクダすら燃やされていたのです。”