誰もが心のどこかで成功したいと思っている。

 漠然と金持ちになりたいという金銭欲だったり、仕事で成功したいという出世欲だったり、異性にもてたいという生物としての剥き出しの欲望だったり。人それぞれ成功の定義は違う。

 だが、その欲望も時代が違えば事情が違ってくる。たとえば過去にさかのぼり、戦国時代の武将を例に考えてみよう。彼らは戦に勝ち、敵の領地を奪い、己の存在を認めさせるために武力を誇示するといったことに血道をあげていた。支配者になるためのすべてが、欲望に直結していたと言ってよい。

 現代的な価値観に照らし合わせると、人を殺すことの後ろめたさが彼らに「武士道」的な精神を持たせたのではないかとさえ思う。でも、当時はそれが「常識」だったのだ。

 常識は、時代や世論によって左右される。戦国時代は気に入らない奴がいれば武力をもって解決すればよいが、現代ではそうはいかない。人の間と書いて「人間」である。相手を尊重する、成熟した現代社会に私たちは生きている。その社会に生きる者として、最近思うことがある。互いに尊重しあう「天秤」のバランスが崩れ、自己を承認してもらいたい欲求を募らせている人々が増えすぎてはいないだろうか? あなたの周りに思い当たる人がいるなら、ぜひこれから紹介する本を読んで欲しい。

 今回の選書のテーマは「承認欲求」である。

ナンパという行為の根底にあるもの

『声をかける』(高石宏輔著、晶文社)

 私はこの本の存在を今後、ことあるごとに思い出すことになるだろう。読後、そんな確信めいた予感にとらわれた。コミュニケーションが混迷する現代において、人の心にこれほどまでに深く踏み込んだ本はちょっと記憶にない。本書が現実であるのか、虚構であるのか判然としないまま、読みすすめながら軽い混乱に陥る。