米航空宇宙局(NASA)の追跡・データ中継衛星(2017年6月23日公開、資料写真)。(c)AFP/NASA/HANDOUT〔AFPBB News〕

 政局関連など、猫の目のようにクルクル変化するものの、率直に言って残る価値がほとんどない話題があまりにも多いので、それらに背を向け、最先端でありながら長く残る価値ある話題を取り上げましょう。

 7月11日、国立情報通信研究機構(NICT)から、超小型衛星による量子情報通信の実験に成功したという発表がありました。

 「量子情報通信」あるいは「量子コンピューター」「量子暗号」など量子と名のつく先端の話題がしばしば報道されますが、基礎を理解するのは必ずしも容易でなく、何が本質的に新しいのか、あるいは強力なのか、ピンとこないことも少なくないように見受けます。

 余談ですが17年ほど前、私は東京大学工学部で原子力工学科の3年生に「量子物性」を教える学内非常勤を担当させられました。

 これを教えなさい、ともらったカリキュラムには「結晶学」「逆格子ベクトル」「ミラー指数」などの言葉が並んでいるのですが、学生は3年生の前期、私自身は物理学科の4年前期でこれらを学び、3年はその基礎の基礎、質点と場の量子力学を一年かけて演習した後、初めて触れた話題でしたので、原子力の3年生がとても理解できるとは思えません。

 初回に教室で挙手してもらったところ、量子力学はもちろん、その基礎となるフーリエ解析という数学も未修と分かり、そこから始めた経験があります。

 このコラムでは、そのような基礎に踏み込むつもりはなく、今回も多くの専門用語はほとんど天下りに近い形に留めて記しますが、反響をみて次回以降補うことを考えたいと思います。

 まず新規性のポイント、基幹競争力=コア・コンピタンスたるゆえんに触れつつ、何が新しいのか、どういう可能性があるのか、また日本はどういうイノベーション戦略を持てるか、といった切り口から、ざっくり素描してみたいと思います。

「量子通信」の交通整理

 最初に言葉の整理から始めたいと思います。先ほどのNICTの研究発表をNHKが報道していました。ここでは「量子通信」という言葉が使われています。どうやら予算獲得などに便利で使われるようになった単語のようですが、あまり感心しません。

 理由は混乱を招きやすいからです。量子通信(Quantum communication)という言葉だけで正確に特定の技術を指すのは困難で、せっかくの新技術の美点が分からなくなったらもったいないでしょう。

 大学や研究所では量子情報通信(Quantum information communication)という言葉で関連の話題を大ぐくりにしますが「量子暗号(Quantum Cryptography)」を用いた通信、今回のように「量子もつれ(Quantum entanglement)」や「量子テレポーテーション(Quantum teleportation)」を用いた通信、さらにはそれらを合わせた複合技術など、様々な可能性があります。