抗ウイルス薬の効果が芳しくない中で、6月中旬、英オクスフォード大学の研究チームは「炎症を抑える作用のある既存の薬(デキサメタゾン)を投与した結果、最も重症化した患者の死亡数が35%減少した」と報告した。WHOは「最初の成功例」と素早く反応し、デキサメタゾンの増産を世界の関係者に呼びかけた。

 デキサメタゾンは安価で広く入手可能なステロイド薬である。1957年に開発され、炎症の原因に関係なく、体内の免疫機能を抑制することでぜんそくなどアレルギー反応が引き起こす疾患の治療に用いられている。

IL6の暴走を抑える「アクテムラ」

 新型コロナウイルスの場合、感染者の8割は無症状か軽症、約2割が重症肺炎となり、重症患者のうち約3割(感染者の6%)が致死的な急性呼吸器不全症候群(ARDS)となると言われている。ARDSとは「サイレント肺炎」と呼ばれ、恐れられているが、その原因は既に明らかになっている。

「新型コロナウイルス感染症はサイトカインストーム症候群である」

 このように主張するのは平野俊夫・量子科学技術研究開発機構理事長(前大阪大学総長)である。平野氏は4月下旬、村上正晃北海道大学教授とともに「新型コロナウイルスのARDSは免疫系の過剰な生体防御反応であるサイトカインストームが原因である」とする内容の論文を発表した。

 サイトカインとは細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称である。サイトカインは感染症への防御を担っているが、過剰に分泌されると多臓器不全などの原因となる。この状態がサイトカインストームであるが、デキサメタゾンは免疫機能全般を低下させることでサイトカインストームを抑制することに成功したと考えられる。