――猫は腎臓病のせいもあって短命ですから、アルツハイマー病を発症しているかどうか、調べようと思わないですね。

宮崎 おっしゃるとおりです。20歳くらいで死んだ猫の脳を調べたら、アミロイドβなどのプラークが溜まっているかもしれません。皆さんが飼っているイエネコだけでなく大型ネコ科動物のAIMも同じ形なので、みな早い段階で腎不全を発症するために短命なのです。

――なぜ!? どうしてネコ科はそんな宿命を・・・。

宮崎 科学的には、生物は個々のベネフィットに応じて進化していくはずなので、おそらくIgM五量体から外れるAIMをもった個体が長生きするネコ科として残るはずなのですが、なぜか進化の枝分かれする辺りからAIMは働かないままネコ科は現在に至っています。猫の研究を始めてからよく考えるのですけれど、唯一説明できるとしたら、ネコ科のAIMがちゃんと進化してしまったら、生態系のピラミッドの頂点にいる大型ネコ科の肉食獣であるトラやチーターやライオンが長生きになってしまって、生態系のバランスが崩れてしまうからではないかと。しかし、生態系のバランスを考えてネコ科のAIMを進化しないようにしましょうという力が働くとは、どういうことなのか・・・現在の科学による常識を覆す何かがあるのかもしれませんし、「神の手によるのか」と言いたくなってしまいます。

完成間近で資金難になった夢の治療薬

――体内で働けない猫のAIMを外から投与することで宿命の腎臓病が治せたり、予防できたりするのですね。2022年頃に完成が見込まれていた治療薬ですが、どの段階まで来ていたのでしょうか。

宮崎 化学合成で迅速に作れる一般的な薬とは違い、タンパク質AIMを培養細胞に作らせて、培養液の中にわずかにできたものを精製して作るバイオ医薬品のタンパク質製剤です。開発初期のどうやって培養細胞にたくさん作らせるか、培養液から高い純度で効率よく生成するかというプロセス開発における条件検討が一番大変なところで、3〜4年かかっていました。次にその条件で作った治験薬をどう臨床試験に使うかを考えます。猫の腎臓病は10何年と抱える病気なので、どの段階の猫に治験をすれば最も短時間でAIMの効果がわかるかというポイントを見つけなければなりません。その見当がついてようやく臨床試験を行うための準備ができました。これから治験薬を大量に作り、決めたポイントで猫に投与してデータを取って認可申請をするという段階まで来たのが2020年の初頭でした。

 人間の新薬は品質や安全性、薬効、薬理を調べながら臨床研究へ進み、フェーズIからIIIの3相の臨床試験を経て、国から承認されれば発売できますが、動物薬での臨床試験は1度だけでプラセボとの比較のみ、人間薬よりも短期間で済むため、2022〜23年には完成すると見込んでいました。そこに新型コロナウイルス感染拡大が影響して、治験薬生産のところでストップしてしまったのです。研究開発としては山を越えていましたが、費用はここからかなりかかるという段階でした。

 ですが、同時に猫用フードの開発も進んでいます。AIMそのものを投与しなくても、既に持っているAIMを定期的にIgM五量体から外すことができれば、体内のゴミを減らして病気を抑えられるはずです。ちょうどエアコンのフィルターを毎週1回掃除して効きをよくしたり故障を防ぐようなイメージです。天然由来成分でAIMを外す働きがある物質が見つかったので、人間用のサプリメントの開発を進めており、これを使った猫のフードも開発中です。若い頃からこのフードを食べてAIMが時々外れるようにできれば、腎臓病の予防効果が見込めます。治療薬はAIMそのものを製剤化し、ある程度悪くなってしまった猫に注射をして悪化を止めることを考えていますが、フードは薬ほどコストがかからず開発も加速しているので、治療薬ができるまでフードで腎臓病の悪化を遅らせられるのではないかと思っています。