骨太な経済書として40万部の異例のベストセラーとなった『人新世の「資本論」』(集英社新書)。著者の大阪市立大学大学院准教授・斎藤幸平氏は、マルクスの最晩年の思想に依拠しながら、現代社会の行き詰まり打破のために、今こそ資本主義から脱却すべきだと説く。片や、現代社会の諸問題と違和感を解剖学、身体論の視点から見つめ思索する養老孟司氏(東京大学名誉教授)。現代社会の生きづらさの原因は何か、どうすれば乗り越えられるのか。フィールドを異にする2人が、“自然に回帰する生き方”の必要性とそこに至るまでの道筋について語り合った。(JBpress)

土台から考え直さなければならない時期

養老孟司氏(以下、敬称略) 『人新世の「資本論」』を読んでまず不思議に思ったのは、なぜ斎藤さんのような若い世代の人が、我々の世代よりもさらに遡った時代の正統派マルキストなのかということでした。そもそもなぜマルクスに興味を持たれたんですか。

斎藤幸平氏(以下、敬称略) 10代の頃、アメリカの大学に留学をした際に、日本では考えられない貧富の差を目の当たりにしたのが資本主義に疑問を感じた出発点です。そこからマルクスの研究に向かい、ドイツの大学院に入ったころに福島の原発事故があり、環境問題にも関心を持ち始めました。マルクスといえば、普通は労働や格差の問題を扱う思想だといわれていますよね。しかし、マルクスも地球環境のことを考えていたのではないかということに気づき、そのことを掘り下げるようになっていきました。もちろん、現代の気候変動のことをマルクスが知っていたわけではありません。しかし、資本主義が引き起こした環境危機と格差問題を論じる際に、マルクスを補助線のように使うと見えてくるものがある。マルクスを補助線のように使って分析したのが、『人新世の「資本論」』になります。

養老 実は2年前に亡くなった義理の兄貴がマルクス経済学の原論の研究者だったんですよ。この本を読んだら何て言ったかなと思っていましてね。

斎藤 そうなんですか。私も今、大学で経済原論を教えていますが、昔とくらべたらマルクスは読まれなくなっています。