小西氏は、自分には免責特権があると信じているようだ。確かに憲法では国会議員は「議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない」と定めているが、院外の記者会見やSNSで秘密を漏洩した場合には適用されない。これは森ゆうこ事件の東京高裁判決の示す通りである。

 したがってこの文書を漏洩した総務省職員の国家公務員法違反はまぬがれない。この犯行は明らかなので、総務省はその職員(氏名不詳)を告発する義務を負う(刑事訴訟法239条)。この点では法律の専門家の意見は一致しているが、問題は小西氏の容疑である。

西山事件より悪質な「秘密の政治利用」

 国家公務員の秘密漏洩については、外務省の沖縄密約をめぐって争われた「西山事件」についての1976年の最高裁判決が、最も重要な判例である。

 ここでは守秘義務の対象となる秘密を「非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの」と厳密に定義した上で、密約が「外交上の秘密」に当たるとし、これを毎日新聞の西山太吉記者に渡した外務省職員を有罪とした。

 最大の焦点は、その電文を入手して報道し、国会で(結果的に)公開した西山記者の行為を違法とするかどうかだった。これについて最高裁は、国家公務員法111条の「そそのかし」にあたると判断し、西山記者に有罪を言い渡した。

 最高裁判決は、そそのかしを「秘密漏示行為を実行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新に生じさせるに足りる慫慂行為」と定義した。今回の事件で小西氏が「慫慂(しょうよう)」したかどうかは今のところ明らかではないが、彼は総務省OBなので、退職後の守秘義務違反に問われる可能性もある。

 西山事件の最高裁判決は、報道の自由を制限した判例として憲法学者にも批判が強いが、今回の事件は国会で閣僚を辞任に追い込もうとする政治利用であり、国民民主党の玉木雄一郎氏は「政治的意図をもってリークが行われる」ことを批判した。

 いずれにせよ、本件が国家公務員法違反に問われることは確実である。国会の会期中は小西氏には不逮捕特権があるが、家宅捜索や任意の事情聴取は可能である。

 総務省がこの問題に言及すると、この文書を漏洩した職員が懲戒処分や刑事罰に問われるだけでなく、その上司や大臣も責任を問われるだろう。それが総務省が曖昧な答弁に終始した理由である。