「世界一」になるために必要なもの

 優勝した昨年11月のNHK杯のあと、宇野がこのようなエピソードを明かしている。

「世界一のスケーターになるにはどうしたらいいだろう。何が必要だと思う?」

 ランビエルから問いかけられたという。2021年3月の世界選手権を4位で終えたあとだ。

 宇野の導き出した答えはジャンプだった。「スケートというのはすべての要素があって成り立つと自覚しているんですが、最近の傾向や活躍する選手の姿を見ると、そう思いました」

 フリーでの「4回転ジャンプ5本」へのチャレンジを決断する要因でもあったが、ランビエルの問いかけはさらに重要な意味を持っていた。そこには宇野が世界一になれるという前提が含まれているからだ。そのポテンシャルを信じるからこそ、「世界一のスケーターになるには」という質問が生まれている。つまりランビエルもまた、宇野を信頼していたことを意味している。

スケーターに寄り添うコーチ

 現役時代、輝かしい成績を残したランビエルは、一方で苦しい時期をしばしば過ごしてきたスケーターでもある。2005−2006シーズンにトリノ五輪で銀メダル、前シーズンに続く世界選手権連覇を果たしたあと、一時期、競技を続行するモチベーションに悩んだ。

 2007年、東京での世界選手権に参加した際、こう語っている。

「ここ数年持っていた情熱を失ってしまって、そのことを理解するのに時間を必要としました。でも今は、すべてを受け入れています。ただ氷上にいるということが大きなモチベーションになっています」

 また、2008年10月には怪我の影響により一度は引退を表明せざるを得なくなった。のちに回復し復帰している。

 これら心身両面において競技生活で葛藤した時間を経験しているランビエルは引退後、プロスケーター、振り付け、指導など多角的に活動を続けてきた。日本スケート界とのかかわりも深く、アイスショーや振り付けを通じてスケーターと交流し、また全日本合宿で講師を務めるなどしてきた。それらで語られるランビエルの印象は、スケーターをとことん思う、寄り添う人であることだった。

 そうした姿勢を持つ指導者と出会い、信頼できる存在を新たに見い出せたことが、宇野の復活、さらなる成長を促したことは言うまでもない。

 そしてその関係性を築けたのは、宇野もまた信頼を寄せられていたこと、宇野が信頼されるスケーターであったことも根底にある。

 世界選手権を終えて、「スターズ・オン・アイス」開幕を翌日に控えた4月1日、宮原知子の引退会見が行なわれ、宇野も出席した。あたたかなメッセージをおくる中、宇野は語った。

「僕はみなさんが『まだスケートやってるよ』ってテレビの前で言えるくらいスケートを続けたいと思います」

 ランビエルと出会ってからの日々で培い、今、スケートに寄せる情熱がその言葉に込められていた。

(松原 孝臣)