文=松原孝臣 写真=積紫乃

北京五輪で銅、世界選手権で優勝

 情感あふれる演技とエネルギーにあふれる動きと……。5月27日に開幕した「ファンタジー・オン・アイス」の坂本花織はあらためて幅の広い演技を披露し、輪郭のくっきりした存在感をリンクに放った。

 その姿は今日までの歩みをあらためて思い起こさせた。

 2021ー2020シーズンの活躍は今なお、人々に鮮明に記憶される。2月の北京オリンピックでは団体戦のメンバーとして女子フリーに出場、好演技を披露して日本の銅メダル獲得に貢献した。個人戦でも3位となり、堂々、銅メダルを手にした。

 そして世界一に輝いたのは、オリンピック翌月の世界選手権だ。内容も圧巻だった。ショートプログラム、フリーともに自己ベストを更新、総合得点も自己ベスト。シーズン最後の大会を笑顔で終えた。それはこの4年間の、苦さも含め数々の経験を重ね、それを糧とする真摯な歩みがあってこその笑顔だった。

不本意だったシーズンを乗り越えて

 2018年平昌オリンピックに高校2年生で出場し6位入賞、その後も日本女子の軸をなすスケーターとして歩んできた坂本だが、すべてが順風満帆であったわけではない。大きなところをあげれば、2019−2020シーズンになる。同シーズンの全日本選手権で6位に終わり、シニアに上がってから3度目の同大会で初めて表彰台に上がれず、涙を流した。世界選手権の日本代表にも選ばれなかった。

 不本意なシーズンを振り返り、すぐに原因が思い浮かんだ。練習への姿勢だった。

「しんどいと思ったら、これくらいでいいか、と済ませる感じになっていました」

 前シーズン、日本開催の世界選手権を視野に入れて、根を詰めて取り組んだ反動があった。大学生になったことで指導する中野園子コーチをはじめ周囲に自立を促され、自ら考え判断する度合いが増えるなど環境が変化した影響もあった。

 人は反省してもそれをいかしきれないということが往々にしてある。「頑張ろう」と一度は思ってもその思いがいつか薄れて継続できない、もとに戻ってしまうことは少なくない。

 でも、坂本は違った。

「このままだめになっていくか、いい方向に持っていけるか。すべては自分次第です」

 その決意を無駄にせず、練習に真摯に取り組んだ。怠ることなく励んだ。地道に励んだ成果は、この1シーズン、時を経るごとに熟成された、細部まで磨かれた滑りが象徴している。それが実を結んだのが北京オリンピックであり世界選手権だった。