できるジャンプの完成度を最大限に高める

 坂本が好成績をおさめた理由には、以前から練習で取り組んでいた4回転ジャンプをプログラムに入れず、できるジャンプの完成度を最大限に高める方向を選んだことにもある。指導するコーチとも相談しての決断だったが、坂本自身の考えも多分にある。

「自分で決めたから、すっきりと切り替えて取り組むことができました」

 のちに、こう振り返っている。

 大学生となってから、自立を心掛けてきたことも、「自分で考えて判断」し、相談して決めた根底にいかされていた。

 それはもう1つの決断にもつながっている。坂本はフリーのプログラムとして『No More Fight Left In Me/Tris』を用意したが、テーマをどう伝えるか、解釈するかなどの難しさから、新プログラムをシーズンで採用するか、以前のプログラムに戻すか、迷いがあった。結論が出たのは夏の大会で2018−2019シーズンの『ピアノ・レッスン』を滑ったときだった。

「今の自分には違うな、物足りないな、と感じました。確認することができました」

 そして新プログラムを用いることを決めたが、一度は旧プログラムを試してみて判断した経緯にもまた、育んできた自立性が結びついていた。

 2019年12月の全日本選手権での悔しさをばねに日々、怠ることなく真摯にフィギュアスケートに向き合い、努力を重ねてきた。根のしっかりした強さと忍耐力を思わせるその過程にこそ、坂本の真骨頂がある。

 団体戦と個人戦の双方に出場し重圧のもとで過ごした北京オリンピック、優勝候補の筆頭とも言われ、そして北京の消耗からの回復という戦いもあった世界選手権、この2つの大舞台で力を発揮し、しかも世界選手権でこの1シーズンの集大成とも言える会心の演技を見せた芯の強さもまた、ここまでの過程によって培われたものだった。

4年後を目指して

 世界選手権から2カ月近くが経って迎えた「ファンタジー・オン・アイス」では、前半に『Heart Upon My Sleeve』で力強さのあるボーカルに負けない演技を披露し、後半には広瀬香美とのコラボ―レーション『君にセレナーデ』を演じた。オープニングやフィナーレではエネルギーのこもったダンスを見せ、そして笑顔とともにショーを終えた。

 ショーを通じて伝わってきた、国内外のトップスケーターの中での堂々たる姿もまた、誠実に歩んだ末にたどり着いた坂本花織の現在地を示していた。

「4年後(のオリンピック)を目指します」

 坂本は語っている。また紆余曲折はあるかもしれない。それでも崩れないであろう凛とした強さもまた、思わせた。

(松原 孝臣)