(山田敏弘:国際ジャーナリスト)

 香港のデモが連日続いている。もはや制御不能とも言われ、今後の動きが予想できない状態になっている。

 そんな香港の動向は、毎日のようにメディアでかなり大きく報じられている。その一方で現在、同じよう厳しい事態に陥っているが、まったく話題にならない紛争もある。

 インド北部のカシミール地方で起きている混乱だ。

外部との通信が遮断されたカシミール

 8月5日、ヒンズー教至上主義の与党BJP(インド人民党)を率いるナレンドラ・モディ首相が、「ジャム・カシミール州の自治権を剥奪する」と発表した。同州は、インドとパキスタンの北部に広がるカシミール地方で、インド政府が統治するインド側カシミールのことを指す。

 自治権剥奪以降、10日以上が経った今も、同州のイスラム教徒が多数を占める州都スリナガルでは、外出禁止令が敷かれ、携帯やインターネットが接続できない状態が続いている。完全に「外界」から遮断され、孤立しているが、その現実が世界でも大きく報じられない状況が続いている。

 一体、何が起きているのか。

 筆者は以前、『モンスター−暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)という本を出版し、カシミール問題を現地で深く取材してきた。

 今回のニュースを受け、知人に連絡をしてみたが、ほとんど通じない状況が続いている。その中でも何人かは、カシミール地方から脱出してインド国内にいるので、連絡がついた。彼らの話によれば、現地は外部からの通信が遮断され、インターネットも使えないような状況にある。特に、8月15日はインド独立記念日であるが、カシミール地方の住民らは「ブラック・デー」と呼ばれ、かねてより「カシミールに対するインドの強硬な支配が始まった日」と認識されている。カシミールでは、インドの他の地域のような独立を祝う日ではなく、「占領政策」に対して悲観する日であり、デモなどが起きやすい。それゆえ、「インドは少なくとも8月15日までは外出禁止令を解かないつもりだろう」と、あるカシミール人の友人は語っていた。