映画でも下水道が逆流する様子が描かれている。トイレから黒い液体がシュッと吹き出るのを、便器の蓋を占めてその上に乗って抑えるという場面だ。でも、実際はそんなお上品ではない。きっと排泄物も混ざっているに違いない茶色の液体が、化粧室からダムの放水のように流れ出るのだ。私はトイレのドアを閉めて、流れ込んでこようとする汚水を堰止めた。私はサンダルを履いて家具を運んでいたのだが、漏電防止のためブレーカーを落として電気を消しているのと、汚水に被われているために、床など見えるはずはない。家具を持ち上げて踏ん張ったとき、ガリッと足で何かを踏みつけた。その感触からしてグラスか何かのガラス製品だろう。一歩間違えば、大けがだった。

『パラサイト』という映画は、そういった場面を、ずいぶん見やすく描いていると思った。その一方で、半地下生活の映像を見ながら、私が見聞きしている実際の半地下生活の姿が脳裏でフラッシュバックされ続けていたのだ。私は映画を見ている間、何度か思わず目をつぶってしまった。

とてつもない格差がある韓国社会

 日本のあるテレビ番組は『パラサイト』の2冠達成を受けて、実際にソウルで半地下生活をする若者に取材していた。その若者はインタビューで、「僕は寄生はしないですけど」と話していた。

 もちろん、多くの半地下生活者は映画のようには振る舞わない。だが、半地下生活をする人たちは、とてつもない格差の底辺で、地面にはいつくばって暮らしている。金持ちの家から半地下の家へ向かうには、長い階段を下っていかねばならない。そうした韓国社会の姿を縮図としてエンターテインメントに仕上げたのが、『パラサイト』という作品である。

(平井 敏晴)