バイデン氏は、条件付きでオバマ前政権時代に成立した「イラン核合意」(注)に復帰するとしている。

(注)イラン核合意:2015年7月にイランと米英独仏中ロの間で結ばれた合意。イランが核兵器関連の開発を抑制する代わりに、イランへの金融制裁や原油取引制限などを緩和した。トランプ米大統領は核合意を離脱し、制裁を再開した。

 バイデン政権が誕生してただちにイランに対する制裁が解除されるわけではないが、もしイランに対する制裁が解除されれば、制裁により閉め出されていたイラン産原油が、世界の原油市場に大量流れ込む(日量200万バレル超)ことになる。ベネズエラに対する制裁も緩和されれば、同国産原油の輸出(日量約100万バレル)が復活することになり、両国からの供給拡大が原油価格の下押し圧力になることは間違いない。

 イランやベネズエラからの原油供給量の拡大に加え、OPECプラスの枠組みに亀裂が生ずる可能性も指摘されている(11月9日付ロイター)。

 トランプ大統領は、米国の石油産業を保護するため、原油安競争を繰り広げていたサウジアラビアとロシアに政治的な圧力をかけたが、これが前例のないOPECプラスの協調減産につながった経緯がある。これに対しバイデン氏は、ロシアを「安全保障上の最大の脅威」として名指しし、サウジアラビアとの関係を見直すことを公約で掲げている。自国の石油産業保護にも消極的であるとされるバイデン氏は、両国と距離を置く可能性が高く、米国からの圧力がなくなれば、OPECプラスの結束は揺らいでしまうのではないだろうか。

サウジアラビアは米国の後ろ盾を失うことに?

 次に中東情勢だが、オバマ前政権時代の中東政策を踏襲するとされるバイデン政権の下では、親米アラブの盟主を自認するサウジアラビアとの関係が再び冷え込むことが予想されている。

 サウジアラビアでは、トランプ政権と深い絆で結ばれていたムハンマド皇太子が「ヴィジョン2030」を掲げて脱石油改革を進めるようとしているが、成果が上がらないどころかむしろ悪化するばかりである。原油価格が予算編成時の想定を下回って推移していることから、財源不足を陥った政府は今年7月に付加価値税を3倍の15%に引き上げたが、これにより国内消費が大幅に冷え込んでしまった。コロナ禍によりイスラム教の聖地巡礼を中止したことによる観光収入の大幅減も頭が痛い。

 危機的な財政状況にあるサウジアラビア政府にとっての「頼みの綱」は、国営石油会社サウジアラムコからの配当である。サウジアラムコは昨年国内市場に上場した(サウジアラビア政府は同社株の約98%を所有)が、その際「IPO後の最初の5年間は750億ドルの配当を支払う」と約束していた。だが原油価格の急落などで経営状態が悪化したサウジアラムコは、借り入れを行うことで巨額の配当を政府に上納する事態となっている。