ムハンマド皇太子は、財源難にもかかわらず、サウジアラムコの配当を頼りに、石油に頼らない国づくりに向けたインフラ整備などを一気に増やそうとしているが、専門家は「純利益を大幅に上回る配当は、サウジアラムコの屋台骨を揺るがせる大問題になるのではないか」と警告を発している。

 サウジアラビアの安全保障環境も悪化している。10月以降、イエメンのシーア派反政府武装組織フーシ派によるドローン攻撃が激化している。イスラム国も10月、「サウジアラビアの原油生産を始めとするインフラ施設に対する攻撃」を呼びかけている。

 イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害されたサウジアラビア人ジャーナリスト、カショギ氏の婚約者が、損害賠償を求めてサウジアラビアのムハンマド皇太子を相手取り、米ワシントンの連邦裁判所に提訴するという動きも生じている。ムハンマド皇太子との友好関係を優先して批判を控えてきたトランプ政権とは違い、バイデン氏は、カショギ氏の殺害事件の説明責任の追及や、サウジアラビアが介入するイエメン内戦への米国の支援停止を公約している。宿敵イランとの関係改善に進むとされるバイデン氏の外交姿勢は、サウジアラビアの安全保障にとって好ましいものではない。

 内外からの批判が高まるムハンマド皇太子が米国の後ろ盾を失うことになれば、サウジアラビアを巡る情勢は一気に流動化するだろう。

中東全体の地政学リスクが高まる懸念

 バイデン政権が発足すると、トランプ政権が強引に推し進めてきた中東和平にも、大きな揺り戻しが起こることが予想される。トランプ大統領の強力なイニシアティブを期待してイスラエルと国交を正常化したアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンは、米国の中東政策が変更されれば、イスラエルの敵国であるイランの軍事的脅威にさらされるリスクが生じる。

 トランプ大統領の盟友だったイスラエルのネタニヤフ首相は11月8日、バイデン氏に祝意を示したが、バイデン氏はイランとの融和を進めるとともに、イスラエルによるパレスチナ占拠地への入植に反対する公算が大きいとされている(11月9日付ロイター)。

 バイデン氏の中東政策に不満を持つイスラエルの閣僚の口から「バイデン氏の当選で、イスラエルとイランの軍事的衝突のリスクが高まった」と物騒な発言が飛び出しており(11月6日付ZeroHedege)、中東地域全体の地政学リスクが高まる懸念が強まりつつある。

 このように、バイデン政権の誕生により、世界の原油市場は「波高し」の状態になってしまうのではないだろうか。

(藤 和彦)