トランプ外交を云々する余裕などない

 ドナルド・トランプ大統領の国家安全保障担当補佐官を13か月間務めたH.R.マクマスター退役陸軍中将で博士(軍事史)が、新著を出版した。545ページの大作だ。

 タイトルは「Battleground: The Fight to Defend the Free World」(戦場:自由世界を守るための戦い)。

 一言でいえば、台頭する中国の脅威に米国はどう対応すべきか、中長期的戦略について戦場での経験と軍事史学者としての豊かな知識に基づいた「マクマスターの兵法」だ。

 同氏は23年前の1997年、「Dereliction of Duty」(責任放棄)という書を世に送ったことがある。

 なぜ米国はベトナム戦争で負けたのか。膨大な資料を精査して書き上げた軍事的見地に立ったベトナム戦史だ。

 そこで追及しているのは、当時のジョンソン大統領、マクナマラ国防長官、テイラー統合参謀本部議長3人の「戦略なき戦略」と職務放棄だった。

 新著でもトランプ大統領や側近たちの「戦略なき戦略」を激しく批判しているのだろうと思いきや、冒頭からこう断っている。

「この本は、私の知人、公吏、編集者、家族が私に書いてほしいと思っているホワイトハウスでの私の体験のすべてを描いたものではない」

「皆がトランプ大統領について抱いていることを確認しようとしたものでもない」

「ある人は、私にトランプ氏は因習にとらわれぬ指導者として米国の国益を拡大するために政策決定し、実施していることを描いてもらいたいと思っているだろう」

「また別の人たちは、トランプ氏は偏屈なナルシストで大統領には向いていないという彼らの判断を私が再確認することを望んでいるかもしれない」

「彼らはそんな本を今すぐ書いてほしいと思っている。大統領選に少なからず影響を及ぼすだろうし、儲かるだろうとの思惑からだ」

「だが私はそうした類の本は多くの人にとっては役立たないし、満足してもらえないと思う。今米国の国家組織は両極化し、世界の自由で開かれた社会は破壊状態にある」

「そうした中で私は、党派的な激しい政治論争を和らげるのに役立ち、かつ読者の方々に我々が今直面している国家の安全、自由、繁栄に対する巨大なチャレンジについて理解を深めていただきたい、そんな思いでこの本を書いた」

「この本を通じてこのチャレンジに打ち勝つにはどう行動すべきか、理解を深めていただきたい」

 国際合意の否定や非寛容主義を示す「トランピズム」も「トランポカリプス」*1について云々するつもりはさらさらない。

*1=政治経験の欠如や異常なナルシズムによって米国を崩壊寸前まで追いやっている現状をいう造語。

 過去の4年間を振り返る余裕などない。直面するチャレンジに行動をとるのだ。そういった危機感が行間には滲み出ている。