2.双循環への理解に違いが生じる背景

「双循環」が経済の海外依存度を低下させることを目指していると見る米国有識者と筆者の解釈の違いは、中国経済の基本構造に対する認識の違いが原因であると考えられる。

 米国のドナルド・トランプ政権は、米国の歴代政権が1990年代以降、対中政策の基本方針として採用してきた「関与(engagement)」政策は何も成果を上げていないと批判した。

「関与」政策とは、中国をやや甘い条件でWTO(世界貿易機関)に参加させ、市場経済の恩恵を先に与え、そのメリットを実感させることにより、中国経済の市場化、さらには政治の民主化を促進するという考え方である。

 2001年のWTO加盟に際して中国政府は、市場開放、国内経済の市場経済化、金融自由化等を推進すると約束しながら、何も変わらなかったと、トランプ政権は主張した。

 その認識を前提に、中国の公約違反を是正させることを大義名分として、中国に対して厳しい貿易・投資摩擦を仕かけた。

 そうしたトランプ政権寄りの認識に立てば、中国政府は引き続き市場経済化を拒否し、国家資本主義の路線を歩もうとしていると理解するのが自然である。

 その延長線上の概念として「双循環」を位置付ければ、これが改革開放路線を目指すものではなく、米国の圧力から身を守るための政策方針であるという解釈になるのは理解しやすい。

 しかし、米国の中国専門家の中には筆者と同様にこうしたトランプ政権の主張に反対する立場の専門家も多い。

 米国内の反中感情に基づく対中強硬論に対して、中国専門家グループが、昨年7月、ワシントンポストに一つの意見書を発表し、米国を代表する元政府高官、国際政治学者ら100人以上がこれに賛同して署名した。

 そこに込められた重要なメッセージは、米国政府が中国に対して行ってきた「関与(engagement)」は失敗ではなく、中国経済に一定の変化をもたらす成果を上げたということである。

(この点に関する詳細は、筆者の米国欧州オンライン面談報告「大統領選挙下の米中関係と選挙後の展望」https://cigs.canon/uploads/2020/10/17b7e67221ca9005c5b47e0e25e66da40bde58a0.pdf (cigs.canon)p.4〜5を参照)。

 筆者もこの認識を共有している。この前提に立てば、「双循環」が、改革開放路線を変更し、海外経済への依存度を低下させることを目指しているという解釈には賛成できないことになる。

 中国政府の経済政策責任者らの真意もこちらにあると筆者は理解している。