4.日本としての対応

 中国がTPPへの参加を日本に対して打診してきた場合、日本としては米国との関係を慎重に考慮しながら対応することが必要となる。

 その際に重要となるのは、日本が世界の自由貿易体制の維持・拡充に向けて最大限の努力を継続するという確固たる理念を土台として、中立・公平な立場からそれと整合的な具体策を実施することである。

 日本は戦後、米国の強力なサポートを受けながら、自由貿易体制の整備に貢献し続け、グローバルな自由貿易システムの構築を目指してきた。その延長線上に生まれたのがTPP11である。

 残念ながら、米国はトランプ政権成立後、その方針を大きく転換し、TPPを離脱したが、日本としてはそうした米国政府に追随せず、自由貿易体制重視路線を堅持し、TPPを成立させた。

 これは日本が自らのリーダーシップで国際社会にとって重要な枠組みの構築を実現した戦後初めての成功事例である。

 現在、日本はそのTPP参加者=プレイヤーにとって主審とも言える立場に立っている。

 主審が誰からも信頼されるために必要な条件は、どのような状況にあっても中立・公平な立場から的確な判断を迅速に下すことである。

 ジャッジの理由が分かりにくい場合には、毅然とした姿勢でその判断理由を分かりやすく説明することも重要である。

 中国のTPP参加を審査するに際して、日本は中国寄りでも米国寄りでもない中立・公平な立場から、世界の自由貿易体制の維持・拡充にとって最も望ましいと考えられる判断基準に基づいて誠実に判断し、中国と交渉する姿勢が必要である。

 その際に米国の圧力に迎合して条件を厳しく設定したり、中国への外交的配慮により条件を甘くしたりすれば、日本への信頼が失われ、日本を主審の立場から追い出す動きが表面化するはずである。

 それは日本にとって戦後最大の外交上の成果であるTPP成立のリーダーシップに対する世界各国からの高い評価を台無しにする。

 上記の中立・公平な立場をとることは、長期的には米国からの信頼を得ることになる。

 米国はトランプ政権の影響により、足許は自由貿易推進に消極的な立場をとっているが、米国内の有識者の多くは引き続き自由貿易体制の維持・拡充を強く支持している。

 日本が短期的に米国の外交方針と一致しない立場をとっても、自由貿易推進という確固たる理念を堅持する姿勢を貫くことは、中長期的には米国の有識者から日本に対する信頼を高めることになる。

 のみならず、世界各国からも米国追随一辺倒ではない日本の姿勢が信頼され、それが国際社会や米国に対する発言力の増大にもつながる。

 一方、中国に対しても公平・中立な姿勢を貫くことは、中国にとって健全な自由貿易体制の構築および国内構造改革の推進にとってプラスである。

 以上のような考え方に基づいて、米中両国のみならず、世界各国から信頼される主審として、日本が引き続き自由貿易体制の維持・拡充のために重要な役割を果たすことを期待したい。

(瀬口 清之)