ちなみに鄭外交部長官は2018年の米朝首脳会談の事前の交渉の際に、トランプ政権の幹部からの信頼を失い、ベトナムでの米朝首脳会談のころには米国との橋渡し役を果たせなかった。それもあって文政権は、米朝が決裂する結果を招くことを全く予測できなかった。そのような人物が、バイデン政権から信頼を得られるかは疑問が残る。

金与正氏の怒りによって外相を更迭か

 鄭長官の指名に伴って外交部長官を更迭されたのが、康京和(カン・ギョンファ)氏である。康氏はこれまで「五京和(オ・ギョンファ)」と呼ばれ、文大統領と共に5年の任期を全うするのではないかと言われてきた。

 しかしそれは、康長官が外相として有能で実績を残してきたからではない。むしろ康氏は、自分の考えを示せないことなどから「目に見えない長官」、「人形」などと評価された人物で、その「無能ぶり」は歴然であった。ただ、大統領夫妻が一番気に入っていた閣僚が康長官だったといわれている。

 その康長官をこの時期に変えたのは、文大統領が「朝鮮半島プロセス」の再稼働に舵を切ったためだろう。

 一つの契機となったのは、今から1カ月ほど前の国際会議で康長官が発した「新型コロナへの挑戦が北朝鮮をさらに北朝鮮らしくした」という言葉だった。つまり、コロナが北朝鮮をいっそう閉鎖的にしたと言いたかったのである。さらに康長官は、「北朝鮮のコロナ感染者“ゼロ”というのは信じがたい」とも述べた。

 これに対し北朝鮮はすぐさま反発した。金与正・朝鮮労働党第1副部長が、すぐに談話を出し、「おこがましい妄言」などと激しく非難したのである。北朝鮮への支援をしたくて仕方のない文在寅大統領にとって、外交のトップが北朝鮮から嫌われてしまったままでは具合が良くない。

 こうした事情を踏まえて考えれば、今回の外交部長官の交代劇は、単に「米バイデン政権発足に合わせた交代」(青瓦台)というものではないだろう。「朝鮮半島平和プロセス」の推進に向け「米国と北朝鮮の説得」という文大統領の野望が透けて見える。野望実現のためには康京和氏では資質が不足していたのだ。

 だが、このように文大統領が北朝鮮の問題に集中すればするほど、米国との関係を見失いつつある。そこが文在寅大統領の外交が「アマチュア外交」とされる所以だ。

 北朝鮮に向けた宣伝ビラの散布を禁じた「ビラ散布禁止法」に関しては、人権を重視するバイデン政権では韓国への批判を呼び起こす、との見方が韓国でも多い。当初は様子見であっても、実際に法が適用されて逮捕者が出たり、北朝鮮への情報流入を妨害したりする事例が発生すれば、米国は黙ってはいないだろう。