死んだ女児はキム氏の子供か妹か

 遺体の腐敗がひどく顔も判然としないので、DNA鑑定によりキム氏の娘であることを確認しようとした。ところが、キム氏と女児の間に親子関係が確認できない。といってもDNA型は全くの他人ではなく、姉妹のようなあいまいな鑑定結果を示していた。疑問に思った科捜研は確認のために4度の鑑定を実施したが、どれも結果は同じだった。捜査を拡大した警察が周囲のDNAを集める過程でソク氏のDNAを鑑定したところ、女児のDNA型と一致したのである。

 つまり、キム氏と死んだ女児は親子ではなく姉妹であり、ソク氏は女児の祖母ではなく母親だったことになる。

 キム氏が産んだ娘なのに、なぜDNA鑑定はソク氏の娘だというのか。ここから、キム氏の娘とソク氏の娘が“すり替えられた”という結論が導き出されたが、ソク氏はその結論を否定した。「私は子供を産んでいない。女児は娘(キム氏)の実子だ。DNA鑑定が間違っている」と。

 国民はパニックに陥った。「あれだけソク氏が否定しているのだから、やはりDNA鑑定が間違っているのではないか」という声まで上がり始めた。女児の遺体の3カ所からDNAを採取し、4度も鑑定を繰り返した結果、DNA型が99.999%一致したのである。ソク氏の「私は産んでいない」という言葉は、科学を真っ向から否定することになる。

 もしDNA鑑定が間違っていたとなれば、「キム氏の保護責任者遺棄致死」として事件はすぐに終結する。ではDNA鑑定による判定ミスはありえるのか。

 1990年に日本で起きた「足利事件」を覚えているだろうか。DNA鑑定の精度が低かったがために、無実の人が犯人に仕立て上げられてしまった事件である。当時の鑑定精度は1000人にひとり、つまり日本国内に同じDNA型が12万人存在する精度だった。このような精度であれば、今回の事件も判定ミスがあるかもしれない。

 しかし現在、韓国で行われているDNA鑑定は非常に高精度である。

 2006年8月にこんな事件があった。ソウルに赴任して暮らしていたフランス人のクルーゾ氏(40)が、自宅の冷凍庫で嬰児2人の遺体を見つけた。警察はDNA鑑定を行い、クルーゾ夫妻の実子であると明かす。しかしクルーゾ氏は、韓国の捜査もDNA鑑定も間違いであると非難する。なぜならクルーゾ氏は妻の妊娠を全く知らなかったからだ。

 クルーゾ氏夫妻は韓国警察の取り調べを受けたあと、フランスに帰って記者会見を開いてこう言う。「嬰児は私たちの子供ではない。韓国のDNA鑑定結果は理解できない。韓国にはもう行かない」。また「妻が出産したと推定される時期まで妻は非常にスリムだった。もし妻が妊娠していたなら夫の自分が知らないはずがない」と主張した。

 結局、フランス側の調査により、韓国のDNA鑑定は正しかったことが判明した。クルーゾ氏の妻は嬰児3人の殺人の罪で(1人は韓国赴任前にフランスで殺害していた)有罪判決を受けたのだ。

 この事件からも分かるように2006年当時であっても、すでに鑑定の精度は高かった。したがって、今回の事件でも判定ミスはゼロに近い。いや、何度も鑑定して同じ結果だからゼロである。よって、女児がソク氏の娘であり、キム氏の娘はどこかに消えてしまったのは紛れもない事実である。