娘が産んだ子供はどこに消えた?

 今回の事件でDNA鑑定は「事実(ファクト)」である。このファクトを裏付ける証拠を見つけるか、ソク氏の自白を導き出すことが、事件解決の重要なポイントといえる。

 DNA鑑定により、女児の母親はソク氏であることが判明したが、ソク氏の夫とはDNA型が一致しなかった。つまりソク氏と他の男性との間に生まれた子供ということになる。

 では、父親は誰なのか。警察は再びDNA鑑定に乗り出す。ソク氏の携帯電話の通話履歴やSNSでのメッセージのやり取りなどを調べ、ソク氏と親密な関係にあった男性2人のDNAを鑑定。出入りしている宅配業者など100人以上の男性を調べた上に、170カ所以上の産婦人科を家宅捜索し、ソク氏の名前がないか、他人の名前で出産していないかも調べた。だが、これだけ捜査をしても、現在のところ、何も手がかりは見つかっていない。

 さて、ここでさまざまな疑問が湧いてくる。第一に、女児をすり替えるには、ソク氏も同じ時期に出産し、性別も同じで、見た目も似たような子供を産まなければならない。そんなことが可能だろうか。

 餓死した女児は2018年3月30日、3480グラムという健康な体で生まれた。警察の調査では、ソク氏は1月に出産している可能性があるとされている。この場合、2人の女児の間には3か月もの差が出てしまう。生後3カ月の赤ちゃんの体重は新生児の約2倍だ。すり替えてもすぐにバレてしまうだろう。

 第二に、ソク氏は子供をいつどこで産んだのか。ソク氏には出産した様子が見られなかった。本人も否定しているし、産婦人科で出産した形跡もない。

 しかし、ソク氏は3年前、ネット上で「セルフ出産」という単語を検索していた。娘のキム氏は産婦人科で産むと決まっていたから、娘のためにこんな検索はしないだろう。こっそり出産しようとしていた形跡が見られる。

 のちに中央日報のインタビューで「妻を(出産していないと)信じているのか」と聞かれたソク氏の夫は、「シャワーのあと、妻の下着姿も見たが、妊婦ではなかった。もし他の男との子をみごもっていたのなら、自分がかばう必要もない」と証言している。ただし前述したフランス人の夫も妻の妊娠に気づかなかったので、臨月でもそれほどおなかの大きくならない妊婦もいるのだろう。

 第三に、女児はいつどこですり替えられたのか。キム氏は産婦人科で出産し、産後調理院という施設で1週間、産後のケアを行った。そのあと、たびたびソク氏の家に女児を連れていって休んでいたという。

 警察は最初、キム氏がソク氏の家にいる間にすり替えられたのではと疑った。しかし、その後の調査で、産婦人科の新生児室ですり替えられた可能性が高まる。この産婦人科では生まれて48時間後に血液検査を行うのだが、その記録にはA型と記されていたからだ。キム氏からは生まれないはずのA型。キム氏はB型であり、遺伝子型はBB型であるため、相手の男性が何型であってもA型の子供は生まれない。

 第四に、もしすり替えられたとしたら、キム氏の産んだ子はどこに消えたのか。餓死した3歳児と、もうひとり子供がいたはずである。