インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が4月7日、イスラム教団体などに対して「無知が不寛容を生む」として「寛容の精神で国家としてのあるべき姿を維持しよう」と呼びかけた。

 大統領自らこのような精神論を持ちだして改めて国民に「寛容の精神の涵養」を訴えなければならない背景には、インドネシアが直面する複雑な問題と感染拡大が止まらないコロナ禍、さらにイスラム教の重要行事である「断食月」があるのは間違いない。

 インドネシアは世界第4位の人口約2億7000万人を抱え、うちイスラム教徒が約88%を占めるという世界最大のイスラム教徒人口を擁する大国だ。しかしながらイスラム教を国教とするいわゆる「イスラム教国」ではなく、憲法でキリスト教、ヒンズー教、仏教なども認め、多種多様な宗教、文化、習俗、民族による国家を標榜している。

 このため「多様性の中の統一」と「寛容」を国是に掲げてバラエティーに富んだ価値観で国民の融和と統一を独立以来これまで維持してきた。

多数派イスラム教徒が優位性を強調

 ところが近年、圧倒的多数を占めるイスラム教徒の保守派や急進派を中心に「イスラム教優位」を前面に押し出して、「イスラム教の価値観」「イスラム教の規範」を「インドネシアの価値観、国民の規範」として少数派の人々に押し付けたがる傾向が強まり、そのことによる軋轢が各方面で噴出してきた。

 インドネシアで唯一「イスラム法(シャリア)」施行が認められているスマトラ島北部のアチェ州を除いて基本的に違法ではない同性愛に関しても、イスラム教の教えに反することから各地で同性愛者のみならず「性的少数者(LGBT)」全体へのいわれなき差別、暴力、脅迫、迫害が全国各地で頻発する事態となっている。

 さらにインドネシアのテロ組織である「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」「ジェマ・アンシャルット・タヒド(JAT)」「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」「ジェマ・イスラミア(JI)」等による自爆攻撃を含めたテロに関しても、テロ実行犯はイスラム教の「ジハード(聖戦)」を唱えてキリスト教徒などへの攻撃を正当化しながら、一般のイスラム教徒は「テロリストはイスラム教徒ではない」との立場を強調して距離をおくなど複雑な「イスラム教内部の事情」も浮き彫りとなっている。