日本のメディアは、尖閣諸島(沖縄県)周辺に出没する中国船の動きを連日報じている。確かに日本の安全保障にとって重大な問題ではあるのだが、尖閣にだけ目を奪われていると中国海軍の実態が把握できない。実は中国海軍の空母や潜水艦は太平洋で活発に動いている。その動向を40年以上にわたり観察してきた元海上自衛隊海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に、中国の狙いと、日本はどのような対応が可能なのかを聞いた。(吉田 典史:ジャーナリスト)

中国の空母は重大な脅威なのか?

──伊藤さんは「中国海軍が太平洋での動きを活発化させている」と以前からよく指摘されていましたね。

伊藤俊幸氏(以下、敬称略) 私が潜水艦部隊にいた1996年、中国海軍艦艇が初めてアメリカのハワイ沖まで航行しました。中国海軍はこの時期にはすでに活動地域を太平洋に広げ始めていたのです。

 1970年代までの中国海軍は、北は青島から、南は海南東までの自国の沿岸防衛しかできませんでした。その後、中国海軍の父と呼ばれる劉華清元上将は、旧ソ連から、ランドパワー(大陸勢力)における海上防衛について学び、第1列島線(日本の南西諸島から台湾を隔てて南シナ海まで)、第2列島線(日本の小笠原諸島からニューギニアまで)の概念を作り出しました。これはオホーツク海を聖域としていた旧ソ連海軍の考え方を踏襲し、第1列島線内を聖域化するため、第2列島線までの間でアメリカ海軍を阻止するという考え方です。

──太平洋では、中国の空母の動きも顕著です。

伊藤 海軍が空母を保有するのは、それがないと艦隊防空ができないからです。艦隊には、少なくとも2つの弱点があります。1つは、戦闘機などの空からの攻撃。もう1つは、潜水艦からの海中からの攻撃。私も艦長だった1998年、ハワイでのリムパック(RIMPAC)演習(環太平洋合同演習)で米国などの艦艇を15隻沈めましたが、「鉄の棺桶」といえるほど艦隊は脆弱なのです。