「海自を尖閣に送れ」といった世論がありますが、私は現時点で海自が出ていくことは好ましくないと考えています。海外からみると「世界第2位の実力を持つ海軍」が前面に出ることになり、その姿は世界から見て衝撃的に映るでしょう。

 海保でも手に負えない場合、自衛隊に下される命令は「防衛出動」になります。その際は海保や警察からスイッチし、自衛隊が敵の排除のために行動をとります。中国が海保に手荒なことをしないのは、そばにいる海自や空自を警戒しているからだと思います。海自の哨戒機は尖閣諸島周辺を飛んでいるでしょうし、潜水艦も潜っているかもしれません。

──元自衛官などが、「尖閣諸島で軍事衝突があった場合、沖縄や九州も巻き込まれる戦争になる」と指摘しています。

伊藤 尖閣諸島については前述のように手を出してくる可能性はあり得ますが、そこからさらに日本本土を攻撃をした場合、国連の安保理決議にもとづき、中国に対して武力制裁が行われるでしょう。中国への国際世論は相当に厳しいものになるはずです。日米安保のもと、米軍も自衛隊とともに戦うでしょう。

 自衛隊の出動に関しては、2003年成立の武力攻撃事態等対処法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)により、自衛隊が防衛出動する法的な根拠が明確になっています。皆さんがイメージしている専守防衛とは異なり、憲法の範囲で襲ってくる敵を排除できる国になっているのです。

 中国はこのあたりを心得ていますから、日本と本格的な戦争はしたくない。むしろ、台湾への工作と同じく、日本国内で様々な工作をして切り崩そうとしてくるでしょう。政治家をはじめ多くの日本人が「中国に対抗しても無理だ」と諦めるような心理になることを目標にするのです。そのために尖閣諸島周辺に連日、公船を出没させているのだろうし、太平洋にも進出しているのだと私はみています。日本の内部から崩れるように仕掛けてきていることにこそ、警戒すべきでしょう。

◎伊藤 俊幸(いとう・としゆき)氏

1958年生まれ。防衛大学校機械工学科卒、筑波大学大学院修士課程(地域研究)修了。海上自衛隊で潜水艦乗りとなる。潜水艦はやしお艦長、在米国日本国大使館防衛駐在官、第二潜水隊司令、海上幕僚監部広報室長、同情報課長、情報本部情報官、海上幕僚監部指揮通信情報部長、海上自衛隊第二術科学校長、統合幕僚学校長、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年退官。2016年から金沢工業大学虎ノ門大学院でイノベーションマネジメント研究科教授としてリーダーシップ論を教える。

(吉田 典史)