米軍のインド太平洋重視シフトは漸進的

 2021年8月の米軍のアフガニスタンからの撤退は、大きな混乱と屈辱的な失敗を伴った。

 ジョー・バイデン大統領がアフガン駐留米軍の性急な規模縮小を推し進めた結果、国防省と国務省との間の政策調整が不十分となり、タリバンが攻勢を強める中で、同政権が状況の変化に迅速に対応できなかったことが最大の要因と見られている。

 首都カブール陥落後、台湾で「米国は有事の際に台湾防衛に動くのか」との警戒感を引き起こしたように、米国の軍事的コミットメントの強さや信頼性に対して国際社会の疑念が高まったことは否定できない事実である。

 このような事態に及んだことで、米国が外交的そして心理的な打撃に苦しんだことは間違いない。

 もとより、米軍のアフガニスタンからの撤退は、中国の覇権的拡大の野望を睨んで、バイデン政権がこれまでの政権以上に「アジア回帰」「インド太平洋重視」の姿勢転換を明確に示すことにあった。

 その後の2021年11月末、米国防省は「米軍の世界的な態勢見直し」(Global Posture Review:GPR)を発表した。

 態勢見直しは、同盟国、友好国との数次にわたる意見交換や協議を経てまとめられたもので、その中には北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本、オーストラリア、韓国、さらに中東・アフリカ地域の10か国以上が含まれる。

 本来、機密扱いのため、その概要以外は公表されていない。

 公表された内容の要点は、次の3点である。

①インド太平洋地域の安定と中国の軍事的進出に対処するためインド太平洋地域を最優先すること=対中国に重心をシフト

②同盟国や友好国との協力強化

③配置転換は漸進的:今後数年で具現化

 ①については、世界の他地域で兵力や軍備を縮小し、特に中東から軍事力(ミサイル防衛部隊や海空軍戦力など)を引き揚げ、インド太平洋地域(と欧州)に再配置すること。

 その際、オーストラリアや米領グアム、米自治領北マリアナ連邦(グアム島を除くマリアナ諸島:テニアン島、サイパン島など)での基地機能を強化するとされている。

 ②については、同盟国や友好国に基地の提供やローテーション配備などを求める内容になっている。

 ③は、対中国を念頭にインド太平洋地域に重心を移す明確な方針を示したものの、大規模な配置転換を見送り、当面のインド太平洋へのシフトは比較的小規模となる見通しを示した。

 つまり、インド太平洋に向けて、配置転換の針を少し動かし、今後数年で針をさらに動かす構えである。

 この背景には、中東(イラン)や欧州(ロシア)で軍の態勢を大きく変えられない厳しい状況が続いており、また、駐留受け入れ国との具体的な交渉には時間がかかることなどの問題が指摘されている。

 国防省高官は、「政権1年目であり、戦略レベルの大きな変化を起こす時ではない」と釈明したが、中国を過度に刺激しないとの配慮があることも窺える。

 これに対し、アメリカン・エンタープライズ政策研究所のザック・クーパー研究員は「米国はこの10年、アジア重視をうたい続けたが、政策や予算など実際の行動との間には大きな乖離がある」「戦略や構想は素晴らしいが、行動が伴っていない」と指摘している。

 また、議会関係者は米誌に「決断と変化、危機感、創造性のすべてが欠けている」として、同態勢見直しをこき下ろした。

 そのように、バイデン政権による実質的な変化の乏しさは、米軍のコミットメントの決意について中国に誤ったシグナルを送る恐れがある一方、インド太平洋地域の当事国の間では期待外れの感は否めず、落胆・不安は解消されていない。

 台湾に対する「曖昧戦略」の見直しなど、その信頼回復には明確な姿勢を示すことが求められよう。