終戦宣言を受諾することも拒否することもできない金正恩

1. 金正恩氏のジレンマ

 現在の金正恩氏は、終戦宣言を受けることも拒否することもできない、ジレンマに置かれている。

 米国と韓国が準備した終戦宣言プログラムは、米韓と相互にやりとりしながらの非核化といえる。このプログラムは、終戦宣言という入口を通じて米朝対話を再開し、核凍結と永久非核化を含む制裁解除を進めるというものだ。ただ、北朝鮮にして見れば、この土俵に乗ると、そのまま非核化路線に引っ張られていく。それが不安なのだ。

 また、米国と韓国の終戦宣言を受け入れると、既存の立場から大きく後退することになる。

 北朝鮮は核問題を解決する前に、米国が北朝鮮に対する敵対政策を撤回し、終戦宣言で合意してこそ、核を巡る会談に出るという立場を取る。北朝鮮に、核問題を長引かせることで制裁解除を実現し、生き残りのための突破口を開こうという下心があるためだ。

 ただ、終戦宣言を拒否するという選択肢を北朝鮮が取れるかどうかは分からない。北朝鮮の経済情勢は瀕死状態で、住民たちは1990年代後半の経済難「苦難の行軍」を彷彿させる極度の飢謹と苦痛を強いられている。もはやこれ以上耐えらないだろう。

2. 金正恩の最大関心事は、韓国の次期政府

 終戦宣言に関する金正恩氏の悩みは、上記の案件以外にもある。それは、3月に実施される韓国の大統領選だ。仮に3月の大統領選で韓国に保守政権が誕生すれば、終戦宣言を対南赤化工作に最大限効率的に利用するという計略が水泡に帰す。

 選挙の帰趨は分からないが、民主党政権になることが確実視される時点で、終戦宣言の締結を決めることが、最善の方策だと固めているようだ。

 韓国が自ら親北政権になることを、金正恩氏は心底期待している。ただ、終戦宣言を早急に締結しても、保守政権はそれを国家安保第一原則にしたがって再検討することは可能だ。極端な話、国会で関連法が通過させない可能性もある。そうなれば、骨折り損のくたびれ儲けだ。

 それゆえ金正恩氏は、韓国の大統領選挙に露骨に介入し、民主党政権を継続させようと、すべての力を注いでいる。それは、韓国で北朝鮮からの資金援助を受け、与党を支持している市民団体が逮捕、検挙される報道でも確認できる。