(北村 淳:軍事社会学者)

 沖縄だけでなく岩国、横須賀、厚木、三沢など各地の米軍基地で新型コロナ感染者が多数報告されるに至り、日本の大手メディアも、アメリカ軍関係者が日本入国にあたっては「日米地位協定」によって日本の法令や規則から全くフリーパスである状況に関して問題を提起し始めた(2021年12月30日掲載の本コラム「沖縄米軍で感染拡大、露わになった『異常な日米合意』の大問題」を参照)。

 ただし、中国政府が国際社会に向かって喧伝しているように、「日米地位協定」や「日米地位協定合意議事録」の問題を「アメリカ軍は新型コロナウイルスのスーパースプレッダーだ」といった視点に集約してしまうと、それらの協定や議事録の本質的問題を見失ってしまうことになってしまう。

 今回多くの人々にその存在が知れわたった「日米地位協定」や、さらに問題のある「日米地位協定合意議事録」、そしてそもそも日米同盟というものが、第二次世界大戦後の勝者(占領統治国)と敗者(被占領従属国)の関係をそのまま引きずっており、日本政府や国会もそのような屈辱的現状を卑屈な態度で容認し続けている状態について、国民的議論を高める契機とせねばなるまい。

在日米軍、日米同盟は抑止効果を発揮しているのか?

 そもそも、なぜ「日米地位協定」や「日米地位協定合意議事録」によって米軍関係者に治外法権的な数々の特権を与えているのか。

 もしも日本が外敵に軍事攻撃を受けていて、自衛隊だけでは全く太刀打ちできない状態に陥ってしまったため、アメリカが安保条約に基づいて日本に支援軍を送り込み、その外敵と戦闘を交えている、という状況にあるのならば、それはやむを得ないと言えよう。

 そして、沖縄をはじめとして日本各地に駐留する在日米軍や、横須賀と佐世保を本拠地にする第7艦隊の存在が、現実的に日本に対して軍事攻撃を実施しようとしている外敵に対して抑止効果を発していると考えられる場合には、米軍関係者に与えている特権はある程度は容認せざるを得ないと言えるかもしれない。

 しかしながら、現在日本は外敵との戦闘中ではない。そして、日米同盟を崇(あが)めアメリカの軍事力にすがり付いている人々が最大の軍事的脅威とみなしている中国に対して在日米軍や日米同盟が抑止効果を発揮しているのか? と問うならば、甚だ疑問と言わざるを得ない。

海洋戦闘の戦力強化を怠ってきた米国

 アメリカはソ連との冷戦終結後、湾岸戦争、アフガニスタン戦争ならびにイラク戦争と砂漠地帯や山岳荒れ地、そしてそれらの地域の市街地での戦闘を、2021年8月にカブールから撤退するまで30年にもわたって継続してきた。

 とりわけ2001年9月の同時多発テロ事件以降は、米軍は戦略組織訓練の全ての努力を国際イスラムテロリスト集団との戦争に集中させた。その結果、米軍は砂漠地帯、山岳荒地、イラクやアフガニスタンの市街地での戦闘能力は充実したものとなった。

 ところがトランプ政権がアメリカの主たる仮想敵を中国、ロシアに転換すると、それらの新たな主敵に対する戦闘力が欠乏していることが深刻な問題となった。

 万が一にも中国との戦闘が勃発した場合、核戦争に発展しない通常兵器レベルの戦いに限定されたならば、海洋戦力とサイバー戦力による対決となるのは明らかである。ところが、アメリカは過去四半世紀以上にわたって本格的な海洋戦闘(海上、海中、空中での艦艇、航空機、各種ミサイルを駆使しての戦闘、場合によっては海兵隊による海岸線エリアでの地上戦も必要となる)に対する戦力強化にはそれほど力を入れてこなかった。というよりも、油断して怠ってきたのである。

接近阻止戦力の強化を推し進めた中国

 一方、中国は、台湾統合という国家目標を達成する場合に起こり得るアメリカによる軍事介入を事前に跳ね返してしまうために、アメリカが対テロ戦争に没頭している四半世紀にわたって、「接近阻止戦力」の強化を徹底的に推し進めてきた。つまり、中国近海域に接近してくるアメリカ海洋戦力をできるだけ遠方海洋において撃退するために、長射程対艦ミサイル、長射程防空ミサイル、潜水艦、水上戦闘艦、戦闘機、爆撃機、早期警戒機などの戦力を強化してきた。現在も対米接近阻止態勢の充実努力は継続中である。

 その結果、中国の「第一列島線」周辺海域(上空域を含む)までの接近阻止戦力の充実には質量ともに目覚ましいものがあり、アメリカ国防当局もその強力さを認めざるを得ない状況に至っている。

 それに対して、米軍の接近侵攻戦力は、旧態然とした空母艦隊や水陸両用戦隊による威嚇を主力としており、表看板としている空母艦隊に搭載される航空機も、中国接近阻止戦力に対してはプロジェクション能力が欠乏しているありさまだ。

海兵隊は大変革を開始

 そしてこれまで長きにわたってアメリカ軍の先鋒部隊を任じてきた米海兵隊も、もはや伝統的戦術と戦力では、強力な接近阻止態勢を構築した中国軍との対決にはとても打ち勝つことができないために、抜本的な戦術転換とそれに伴う組織と装備の大変革を開始している。

 すなわち、敵の領域に勇猛果敢な侵攻部隊を着上陸させるという第二次世界大戦スタイルの戦術は少なくとも中国軍相手には捨て去り、地対艦ミサイルや地対空ミサイルを装備した海兵隊部隊を中国軍の支配が及んでいない島嶼などに送り込み、それらの陸地から迫りくる中国軍艦艇や航空機を攻撃し中国軍の接近を阻止する、というのが、海兵隊の中国との海洋戦闘の新戦術なのだ。

 そのため、海兵隊は地対艦ミサイルや対艦攻撃用ロケット砲それに防空システムなどの調達や部隊編成を開始している。その反対に、これまで海兵隊のシンボルともいえた水陸両用強襲車の水上における使用は中止されている状態だ。

 要するに、対中国戦においては、海兵隊の主戦力は機動力のある地対艦ミサイル部隊ということになり、これまで沖縄に陣取ってきた海兵隊部隊とは様相を異にすることになるのである。

在日米軍と中国海洋戦力の現状を再認識せよ

 このように、海兵隊自身が、これまでの戦術を捨て去ってミサイル部隊化しようとしているのであるから、現在の海兵隊戦力は中国に対しては抑止効果は持っていないことを、海兵隊自身が認めていることになる。

 海兵隊が推し進める地対艦ミサイル戦力が完成して、沖縄だけでなく対馬から与那国島まで数多くの海兵隊ミサイル部隊が配備されるようになった場合には、中国艦隊に対するする抑止効果が生ずる可能性はある。しかし、そのような戦力を海兵隊が手にするまでは、抑止効果は発揮されないのが現状だ。

 日米地位協定の問題が浮上したのを契機に、このような在日米軍と中国海洋戦力の現状を再認識して、日米同盟そのものの改善策を検討する時期に立ち至っている。

(北村 淳)