(平田 祐司:香港在住経営者)

 5月8日、香港の次期行政長官を決める選挙人による「選挙」が行われた。中国によって「唯一の候補者」とお墨付きを得た李家超(ジョン・リー)氏しか候補者がいないのだから選挙と呼ぶには程遠い単なる儀式だが、これで次期行政長官が正式に決まった。既に政務引き継ぎ作業が進行中だ。

 投票権のある選挙委員会の人数は1461人。昨年の中国全国人民代表大会(全人代)でその定員数は増員されたが、民主派が多数を占める区議会枠が廃止されたことで、民主派は完全に排除された形で投票が行われた。

 賛成(信任)1461票、反対(不信任)8票、白票4票、棄権33ということで、全人代のように反対1、棄権1よりはましだったのだろうが、いずれにせよ出来レース。香港市民の関心はほぼゼロで、むしろ無駄な行政経費を使うなというのが本音だろう。候補者選出の過程といい、選挙そのものといい、民意には程遠いのだから当然の反応だ。

出馬記者会見冒頭で思わず口から飛び出した中国語(北京語)

 中国が香港の行政長官選出に介入し、事実上、中国共産党がそれを指名するのは今に始まったことではない。しかし、今回の候補者選びほど中弁連(中央政府駐香港連絡弁公室=香港にある中国政府の出先機関)が露骨に介入したことはなかったと感じる香港市民は多い。

 中弁連が所有する大公報(香港での中国共産党機関紙)や文匯報など親中派メディアを通して早くから李家超氏を「唯一の候補者」として推挙し、複数の候補者が出ることすら否定してきたのだから、立候補手続きや選挙などすべてが茶番劇。次の行政長官が誰になるか、早々と香港市民の知るところとなった。

 4月11日、行政長官選挙への出馬会見を行った李氏が冒頭いきなり中国語(北京語)で「剛剛(Gang Gang)」と口にしたのには筆者も唖然とした。「たった今、したばかり」という意味だが、香港の公用語の広東語では口ヘンに岩と書く漢字の「アム、アム」と言う。

 思わず北京語が出た李家超氏は、その直前まで「北京語で誰かと話していたこと」を図らずも自ら暴露した格好だ。正式出馬会見の直前まで「中国のご指導を仰いでいた」ことを意味する。少なくない香港市民が失望し、改めて香港のすべてが中国に支配されていることを思い知らされたわけだ。