(平田 祐司:香港在住経営者)

 6月13日、香港島のアバディーンにある水上レストラン「ジャンボ・キングダム(珍宝王国)」が半世紀にわたる歴史の幕を閉じ、姿を消した。新型コロナの感染拡大で2020年3月から営業を停止していたが、6月に港湾使用許可が切れることに加え、維持補修費用がかさむことから、所有主のメルコ・インターナショナルが売却を決め、停泊していた港からえい航されたものだ。

 当日は最後の姿を見ようと、別れを惜しむ多くの香港市民がアバディーンに集まり、各メディアはえい航される模様を生中継した。

 日本人観光客にも親しまれ、香港を代表する観光名所だった「ジャンボ」が姿を消したことは、変わりゆく香港をどこか象徴するものだ。事実、返還25周年を迎える7月1日から警察出身の李家超氏が行政長官に就任し、公安・治安部門の人脈が政府の要職に就く新たな統治体制が始まる。既にそれに向けて、これまでの香港にはなかった変化が進んでいる。

市民生活よりも「中国最高指導部」を優先する香港政府

 6月末で任期を終えるキャリー・ラム行政長官は6月14日の定例会見で、返還記念日(7月1日)に中国最高指導部が無事に来訪できる条件を満たすため、「海外からの入境者に対する水際対策は一歩も譲歩できない」と明言した。経済活動、市民生活への影響よりも習近平国家主席以下、中国からの要人を迎えることの方がはるかに大切だ、と臆面もなく言い放ったのだから、驚くしかない。

 ラム行政長官は、「外国系商工会や地元財界から、最低1週間の強制隔離が求められる水際対策の緩和を求める声が相次いでいることは承知している」としながらも、結局は無視を決め込んだことになる。

 既に、しびれを切らした外国系企業は、香港拠点の縮小や駐在員のシンガポール移籍を進めている。新型コロナで傷ついた香港経済をさらに悪化させるそうした動きに地元経済界が懸念するのは当然のことだが、キャリー・ラム氏には中国要人の「お出迎え」しか頭にないようだ。

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