9月6日に開始されたウクライナ軍の反転攻勢により、ウクライナ軍は、5日間でハルキウ州のほぼすべてを奪還した。

 ロシア軍は、戦車や装甲車、武器、弾薬を捨てて遁走した。

 依然として部隊の連携に欠陥があり、大義のない戦いに無理やり駆り出された士気の低いロシア軍が、この戦局を逆転することは極めて困難であると筆者はみている。

 さて、今回のウクライナの軍事的大勝利はウラジーミル・プーチン大統領を窮地に追い込んだ。

 残虐行為で知られる「カディロフ部隊」をウクライナに派遣しているチェチェン共和国のカディロフ首長は9月11日、作戦に「間違いがあった」とロシア軍を批判した。

 また、ロシア国内でもプーチン大統領を批判する声が上がり始めている。

 モスクワの区議グループは9月9日、ウクライナ侵攻の責任を問いプーチン大統領の辞任を求める要望書を公表した。

 サンクトペテルブルクでも議員グループが9月7日、「プーチン氏の行動は、ロシアの安全保障を脅かしている」として辞任を求める要望書を公表した。

 また、9月16日に開催された印ロおよび中ロ首脳会議では、インドと中国がウクライナ戦争に関する懸念を表明した。

「非西側諸国間の結束」を目指しているプーチン氏にとって大きな打撃となった。

 また、思いもよらぬロシア軍の敗北に狼狽したプーチン氏は、9月21日、30万とも言われる予備役の部分的動員令を発令した。

 これに対して、抗議デモがロシア全土に広がった。

 さらに、占領された領土の奪還を目指して攻勢を続けるウクライナ軍の機先を制するために、プーチン氏は、ウクライナ東・南部4州でロシアへの編入に向けた「住民投票」を従来予定の11月から前倒しで9月23日から実施した。

 これに対して、G7首脳は、住民投票は、ウクライナが主権を有する領土の地位を変更するための偽りの口実を作るためのものであり、また、これらの行為は国連憲章および国際法に明確に違反し、国家間の法の支配に正面から反するものであると厳しく非難した。

 このように、ロシアの国際社会からの孤立化がさらに進んだ。

 ところで、内憂外患を抱え、正念場にあったプーチン氏は、大きなミスを犯したと筆者はみている。

 それは、極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでの演説(9月7日)である。

 同演説で、プーチン氏は、「ロシアはウクライナでの特別軍事作戦で何も失っていない」と述べた。

 ロシア軍の戦死者は、ロシア当局が戦死者数を発表していないので詳細は分からないが1万〜5万人と言われている。少なくても1万人のロシア国民が戦死しているのに「何も失っていない」とは、兵士の命を軽視しているとしか思えない。

 この演説でプーチン氏が国民の信頼を失ったことは紛れもない。

 ロシア国民がプーチン氏のために死にたくないと思うのは当然であり、今後、ロシア軍の士気は決して高揚することはないであろうと筆者はみている。

 ところで、ロシアをあまり追い詰めると、核兵器を使用するのではないかという懸念が生じる。

 筆者は米国をはじめとするNATO(北大西洋条約機構)30カ国の通常兵器と核兵器は、ロシアの核使用を思いとどまらせているとみている。その理由などは後述する。

 以下、初めにウクライナ軍の反転攻勢成功の要因について述べ、次にプーチン大統領に対する国内の反発について述べ、次にロシアの国際社会からの孤立について述べ、最後に米・NATO加盟国が、ロシアの核使用を抑止している理由について述べる。