キャリア女性が出産を機に仕事を辞める本当の理由

 〜企業におけるこれからの女性活躍推進〜

菊地加奈子 きくち かなこ
社会保険労務士法人ワーク・イノベーション 代表社員
株式会社ワーク・イノベーション 代表取締役

早稲田大学商学部卒。企業における両立支援を実現するための人事制度構築や労務管理の支援を行う一方で、企業内保育施設の導入支援・運営委託を全国に展開。
自らも1男4女、5人の子どもを育てる母として自社内に企業内保育施設を設置し、短時間勤務者の専門職種が多数活躍する組織を運営している。

昨年、世の中を騒がせた「女性活躍推進」。男女の雇用均等というそれまでの目標から、「活躍」という言葉によって、女性の働き方や企業の中で期待される役割が具体的な数値目標と共に再定義された。とりわけ、法に基づく認定制度により、「出産しても働き続けて」「管理職になる」女性が多い企業こそが女性が活躍している組織であると、具体的な数値の目安とともに定義されたことは社会的にも大きなインパクトがあったのではないだろうか。そうした流れから、企業も本腰を入れて女性の活躍推進に取り組み始めたのだが、法施行から1年余りがたち、国が描く将来像とは異なる方向性も見えてきた。

キャリアのある女性たちが出産後に仕事を辞める本当の理由

育休取得や時短勤務が徐々に浸透しつつある一方で、いわゆる「マミートラック」にはまる女性の問題が取り上げられ続けてきた。仕事と育児の両立が思った以上に大変である上に、仕事面ではこれまで積み上げてきたキャリアを生かすことができず、職場からも必要とされていないように感じ、モチベーションがどんどん低下してしまう…そうした理由で離職する女性が少なくないのは事実だ。これは「一度キャリアコースから外れてしまったら戻れない不安」をもたらす職場の環境・風土に起因するものだといえる。

しかし、キャリア女性の意思をさらに掘り下げて考察してみると、経験を重ねてきた職場を離れる理由はそれだけではないことが分かる。明らかなのは、「今は仕事にかける時間や職務レベルを一定期間落としたとしても、心身の負荷がかかりすぎない程度のバランスを維持したい」という思いを持った女性が多数いるという事実である。今回あえて注目したいのはキャリアがありながらあえてペースダウンを希望する、そんな女性たちだ。

国が目指す女性活躍推進社会は「時短勤務であっても、通常勤務の人と同様にキャリアアップしていく女性を増やしていきましょう」というもの。女性管理職育成研修では、育児中の女性たちが抱える不安を少しでも払しょくするためにと、受講者の意識を前に向ける働き掛けに力を入れる。もちろん、こうした取り組みは、キャリア断絶への不安や悩みを抱える女性の背中を押したり、職場全体でサポートしながら能力伸長を図っていくこととして意味のあることではある。

しかし、キャリアの成長曲線は常に右肩上がりではなく、さまざまな波形を描きながら上昇していくものだ。一時的に停滞したり、下降したとしても、長い目で見れば着実に成長していることもある。そして、それぞれの成長曲線に合わせて選択可能な働き方を、社内制度にまで具体的に落とし込むことが必要なのだが、それを形にできる企業はまだまだ少ない。結果として、0か100かの選択を迫られた女性たちは「企業を去る」という道を選ぶことになる。

専門スキルのある人ほど正社員にこだわらない。
女性たちが望む働き方とは?

総務省統計局「労働力調査」によれば、正規雇用を希望しているのにかなわず非正規として働いている人は、非正規全体の2割弱。これを「2割近い人が望まない働き方をしている」と取るか、「非正規で働く人の多くが、多少収入が少なくても自分の自由意思で働き方を選択している」と取るかで考え方が変わってくるが、後者と見るのであれば、いわゆる正社員によって基盤人材が構成される企業の体制の現状に大きな課題があると捉えることができる。すなわち、不本意非正規ではない人たちのすべてとはいわないまでも、多くの人にとって「自分が望む働き方の選択肢が企業の正規雇用の中にない」とみることもできるだろう。

「非正規」というと、いわゆるパートタイマーのような補助的な仕事に就く人が想像されるが、実はキャリア女性、特に専門職など、特別なスキルや資格を持つ女性の間でも、非正規型の働き方を希望する傾向が見られている。例えば、医師や看護師が、育児期だけは夜勤や救急のないクリニックで短時間勤務をするケースが該当するだろう。

どこでも通用するスキルがあれば、一つの企業に固執する必要もなく、出世や企業組織の中で競争に勝ち抜いていくことへの関心も薄くなる。自身のスキルに自信があるからこそ、「自分のペース」をフラットな視点で考えることができるのだ。

「子どもが小さいうちは、子どもと過ごす時間も大切にしたい」――こんなことを口にすると、ともすれば「三歳神話」や「良き母親幻想」など、言い古された言葉と共に「キャリアが断絶した女性」というカテゴリーに組み込まれることもあった。しかし今日は、深刻化する人材不足による売り手市場化も一つの追い風となり、キャリアを重ねスキルを備えた女性たちが、本当に自分がやりたい仕事、仕事と生活のバランスを自ら考え選ぶことができる選択肢が広がりつつあるのだ。

企業による働き方のデザイン。「フリーランスのような雇用」へ

さらに今日、出産・育児期の女性たちが新たな働き方を選び始めている。それがフリーランスという働き方だ。働く側にとっては、特定の企業に属することなく、自分の時間をコントロールしながら、自分のスキルを多方面に提供することができる。企業側としても、ある程度のスキルを備えた人材を活用することで、育成のための教育訓練を行うことなく即戦力が得られ、労働時間管理や社会保険といった人事面の手間も省けるためニーズが高まりつつある。

ここまで双方にとってメリットが大きいのであれば、このまま「雇用」という形態での働き方がなくなっていくのでは?――そんな声も聞こえてくるくらいだ。

確かに、これだけ労働力人口が減少している中で、人的資源の最適分配を目指す必要から、当然にフリーランスのような働き方は増えていくと考えられる。しかし、企業という組織を形成する中で、一つの経営理念の下に企業文化を醸成し、目標に向かってチームワークを構築していく過程においては「雇用」という強いつながりが絶対に必要なのだ。また、フリーランスという働き方は、雇用によらない以上、どうしても不安定であり、業務量に対する適正な報酬を受けられないことがあったり、社会保障や労災の給付を受けられないというリスクもある。

そういった観点からも、企業がこれから働き方の見直しにおいて意識すべきことは、優秀な女性が企業の中で、ライフステージの変化と職務職責を最適な状態で調和させながら長期的な視点でキャリアアップしていくことを、「雇用ならではの一体感・安心感」と「フリーランスのような柔軟性」の両方に目を向けた制度構築で支えることにあるといってよいだろう。

人事マネジメントの大変革期。柔軟な働き方が企業を変える

では、企業は「柔軟で多様な働き方」を実現するためにどのような制度を構築すればよいのだろうか。先に触れたように、フリーランスという立場は自由度や柔軟性に優れる一方、一定のリスクも避けられない。そこで、こうしたリスクを排除できる「雇用」のメリットを活かしつつ、柔軟性のある多様な働き方のレパートリーを取り入れることが、優秀な人材の確保に向けたカギとなるだろう。例えば次のような例が考えられる。

①キャリア追求型

短時間勤務であっても、産前の業務レベルを落とさずに担えるようにすること。そのために在宅勤務やフレックスなど、できる限り働き方の柔軟性と裁量を持たせる。勤務時間が短縮される分、担える職務も少なくなり、残業することも難しいため、当該従業員の職務の範囲・業務量を適正に把握しながら、必ず情報共有できるチーム力を鍛えることが重要。

②バランス型

時間を短縮するだけでなく、一定期間職務・職責を軽減する。また、軽減する前の職務・職責に戻れなくなってしまうことのないよう、変化に合わせて原職復帰を目指すことが重要。また、短時間勤務であっても余裕時間を自己研鑽に投じるなど、業務外での人材育成計画が実現されることが理想。

人事マネジメントの大変革期といえる近年、これまで画一的だった働き方が、「多様性」「柔軟さ」という言葉を反映して大きく変わりつつある。そうした中で、これまでキャリア継続が難しかった女性たちが、自ら働き方をデザインしながら長期的な視点で能力を高め、発揮できるステージが徐々にできている。人手不足に悩む企業にとっても、キャリアを継続しながら柔軟な働き方を求める女性たちにとっても、このチャンスを逃してはならない。

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