(大室 正志 著 集英社新書 2017年6月)

 

 本書は、約30社の産業医を務め、多くの社員を診てきた著者が、自殺する社員とはどんなタイプか、社員を自殺させる会社の問題点は何か、過労自殺の原因と対処法を説いた本です。

 第1章では、現代の産業医は、健康・メンタル面からの社員のカウンセリングとともに、企業コンサルティング的役割も担うようになってきているとしています。また、人を過労自殺まで追い詰めるのは、個人的な要因以上に、会社のルール、常識など「構造」に原因があることのほうが多いのではないかとしています。

 第2章では、電通・高橋まつりさん自殺事件の背景を検証し、電通の問題点を探るとともに、他の企業にも思い当たるところがありそうな、社員を自殺に追い込む要因や企業風土を解説しています。業界トップ企業に入社し、逃げ場がなかったことも考えられるとし、また、女性の総合職が少ない企業では、女性ののほうが体育会系男性カルチャーに合わせるべきだという風土がまだ残る一方、現代の新卒女性は昔のように肩に力を入れて、男性社会の中でやっていく気負いを持って入社していないため、そうした企業に入ってギャップに戸惑うことが少なくないと指摘しています。

 第3章では、会社でうつになりやすい人たちの特徴として、反射的に「大丈夫です」と答える、人に弱みを見せられない、「○○すべき思考」などがあるとし、また、うつはベンチャー企業では軽症が、大企業では重篤化するケースが多いとしています。若年層に多い「ありのままの自分」にこだわる「アナ雪症候群」、上司の指導をすぐパワハラと思い、逆に放っておかれると不安になる「ネグレクトうつ」、横並び感覚で育ってきたため上下関係に慣れていない「ワンピース世代」、妻が会社を辞めさせてくれない「嫁ブロック問題」など、現代のうつの原因となる問題を分かりやすい言葉で説明しています。

 第4章では、社員をうつや自殺に追い込む会社の構造とはどのようなものかを考察。現代は日本企業の伝統的価値観である「家族主義」が崩壊し、新しい働き方へ移行する過渡期であるとし、そうした中、社員に負担をかけ自殺に追い込みかねない古い考えの上司はどんな人なのかを指摘し、上司も変わらなければならないとしています。この中で、部下に「やりたいこと」ではなく「絶対やりたくないこと」を聞いてみるというのは、逆転の発想で面白いと思いました。

 最終第5章では、過労自殺を起こさないために、これからの上司はどんな人が望ましいのか、どういう改革や心構えが必要かを説き、「エンゲージメント・サーベイ」などのすでに始まっている取り組みを紹介しています。結語として、「働き方」に関して社会が変わろうとしている中、個人も組織も社会も、新しい時代の安定した状態を探るために、「バランス」を再考することが重要だとしています。

 会社でうつに追い詰められやすい人たちの特徴や、社員をうつや自殺に追い込みやすい会社の特徴、これからの上司はどんな人が望ましいのかといったことについて、上司でも部下でも誰でも気軽に読めるよう分かりやく書かれていますが、人事パーソンにとっても示唆に富む内容の本であり、一読してみるのもよいかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年7月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき
 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー 
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