働き方改革のもう一つの道
――働きがいのある組織をつくるには

山本 寛 やまもと ひろし
青山学院大学経営学部 教授

博士(経営学)。働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントが専門。日本経営協会・経営科学文献賞、日本労務学会賞・学術賞等受賞。著作は、『人材定着のマネジメント』(中央経済社)、『自分のキャリアを磨く方法』『転職とキャリアの研究 改訂版』『働く人のためのエンプロイアビリティ』『昇進の研究 増補改訂版』(以上、単著。いずれも創成社)等。2017年5月に『「中だるみ社員」の罠』(日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社)を刊行。

働き方改革とは

現在、わが国では、「働き方改革」に関するさまざまな話題が耳目を集めている。働き方改革では、長時間労働是正、正規社員と非正規社員の格差是正、転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行の確立等を柱とする多くの施策によって、労働生産性を向上させることが目標となっている。近年これほど、人のマネジメントに関することに世間の注目が集まったことは少なく、リーマンショック後の派遣切りが話題になったとき以来ではないだろうか。

本稿では、今後のわが国の在り方に大きな影響を与える働き方改革について、働く人の「働きがい」の面から提言していきたい。

働きやすさと働きがい

働き方改革は、主に労働時間など仕事の外形的、形式的側面を問題とし、その改善によって、働きやすさを高めることになろう。しかし、それだけでは(例えば労働時間が短くなっただけでは)、労働生産性向上は困難である。生産性向上のためには、仕事の中身ややり方、つまり、仕事の内容的側面として「働きがい」の向上が重要なのである。これは、働きやすさと働きがいを比較した以下の調査からも明らかだ[図表]。

[図表] 働きやすさと働きがいの比較

資料出所:厚生労働省 「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書(従業員調査)」(2014年)

これによると、会社の業績が「上がっている」「どちらかといえば上がっている」と答えた人の比率を見ると、「働きやすい」群同様、またはそれ以上に、「働きがいがある」群のほうが高いことが分かる。このことからも、働きやすさ向上を主眼とした働き方改革だけでは業績向上には不十分で、働きがいを考えた施策が必要なことが分かる。

そもそも、働きがいとは何だろうか。働きがいの「がい(かい)」とは、「やりがい」「生きがい」「育てがい」と同じく、何かの行為をしたことの結果生じる効果を示す。つまり、働きがいとは働いた結果、(自分にとって)何らかの意味が見いだせることである。言い換えれば、働きがいを感じている状態とは、モチベーションやエンゲージメント(仕事への熱意度)が高い状態といえる。

しかし、最近これに関して衝撃的な報道がなされた。アメリカのギャラップ社が世界の企業を対象に行った社員のエンゲージメント調査である(5月26日付 日本経済新聞)。わが国の企業で働く人のうち、「熱意あふれる社員」とされたのはわずか6%にとどまり、139カ国中132位と、限りなく最下位に近かったという。アメリカの32%と比べても、働きがいの低さは際立っていた。逆に、「やる気のない社員」とされたのが実に70%に達した。しかも、4年前の熱意あふれる社員7%、やる気のない社員69%と数字はほとんど変わっていない(ギャラップ,2013)。それでは、働きがいのある組織をつくるにはどうしたらよいだろうか。

働きがいのある組織をつくるには

働きがいは、働いた結果や、その結果が自分や周りにとって持つ意味が明確になることで向上する。その観点から、働きがいを高める取り組みの一つ目として、社員の仕事での頑張りや成果が周りから認められるような施策の実施が挙げられる。例えば、表彰制度や、業務上の提案(制度)における報奨金(手当)の支給だ。また、仕事で使うスキル(技能)の見える化だ。これにより、自分のスキルの向上度が明らかになるとともに、周囲に知られることで励みにもなり、評価にもつながる。

管理職の役割も重要だ。アメリカの調査では、直属上司との関係が社員のエンゲージメントの向上要因になっていた(デール・カーネギー・トレーニング, 2012)。そのためには、上司の資質を高めることが必須だ。例えば、上司に、部下の効果的なほめ方研修を行い、相手に合わせた励まし、教育指導や部下のその時々の状態を見ながら権限委譲を行えるようになってもらわねばならない。その上で、部下との定期的な個別面談(1 on 1ミーティング等)を制度化するなどの場づくりが必要だろう。

二つ目は、組織・職場のために頑張ってくれた人に報いる施策であり、働きぶりに連動した報酬制度を取り入れる必要がある。ただし、評価の公平さを最も重視する必要がある。

最後が、働き方改革の長時間労働是正とも重なるが、勤務時間や休暇を本人の事情を考慮して選択できるようにすることだ。年次有給休暇の取得促進およびその時間単位の付与、1カ月以上の長期休暇やシフトの柔軟性向上等だ。ワーク・ライフ・バランスの観点からだけではない。働きがいは働いているときだけに感じるものではなく、働いた後に振り返って感じることも多い。読者の皆さんの中にも一生懸命働いた後、家でビールを傾けながら、働きがいを感じた経験をお持ちの方もいるだろう。そもそも、ずっと働き続けていたら働きがいを感じることはなく、ONとOFFの切り替えが必要なのだ。さらに、OFFを自分の都合で決められればもっと効果は高い。その観点からは、勤務間インターバル規制の導入も検討されるべきだろう。

以上のような施策を、現在働き方改革として実施されている施策と併せて実施することで、働き方改革の目標である労働生産性の向上、そして企業の成長に結びつけることができるだろう。

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