働き方改革時代の組織開発

守島基博 もりしま もとひろ
学習院大学経済学部 教授

1980年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。1986年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得、同年サイモン・フレーザー大学(カナダ)経営学部助教授。1990年慶應義塾大学総合政策学部助教授、1998年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職。同年7月より労働政策審議会労働政策基本部会部会長。

働き方改革の真の目的

働き方改革の真の目的は、多様な人材に働きがいと働きやすさを提供し、一人ひとりが個別のニーズを充足しながら、活き活きと働ける環境をつくることである。その意味で、人事は、今後ますます一人ひとりの能力とニーズに基づいた働き方を提供するための仕組みづくりが求められる。人材不足の時代、人材の確保と生産性向上の両面で、働き方改革はわが国企業にとって必須の課題なのである。

だが、同時に、働き方改革を推進することは、職場にさまざまな多様性を持ち込むことにもなる。女性や高齢者、外国人などの雇用も増大するだろうし、また、働く場所や働く時間の多様性、さらに今後は副業や兼業、週3、4日勤務や出戻り社員、雇用類似の働き方をする者など、キャリアの多様化も進む。

さらに、こうした雇用や働き方の多様化と同時に進むのが、職歴、スキルや価値観、意識などの多様化である。ダイバーシティ論では、こうした多様化を「深層のダイバーシティ」と呼ぶ。例えば、上司が若者とコミュニケーションを取りづらくなっていると感じているのであれば、それは深層のダイバーシティが関連している可能性が高い。かくいう私も、最近は20歳前後の学生から送られてくる、Lineのメッセージのようなメールに困惑することが多い。

ただ、そうした時代になっても、職場や組織の基本は信頼とコミュニケーションであることに変わりはない。いや、個々人の能力と意識が多様化する時代だからこそ、信頼とコミュニケーションが重要なのである。わが国の企業はこれまで長らく、男性正社員を中心に、長時間労働の下で、飲み会や社員旅行などを通じてコミュニケーションの基盤をつくってきた。また、長期雇用を前提に、じっくりと信頼関係を築いてきた。

でも、残念ながら、今やこうした環境にはないのである。いや、正確に言えば、長時間労働や男性正社員だけの職場を積極的に変えていこうというのが、働き方改革なのである。働き方改革の時代、職場のコミュニケーションを活性化し、信頼関係を築くことは新たなチャレンジとなる。

リニューアルすべき組織開発

組織開発とは、経営が行う「職場で信頼関係を築き、コミュニケーションを活発にするための意図的な活動」である。組織開発に関するわが国の第一人者である南山大学の中村和彦先生によれば、組織の目的や制度などのハード面に対し、人間関係などのソフト面を変革し、よりよくする活動だとされる。また、組織開発には、専門家を入れて行うワークショップ等のほかに、現場で行われる「組織開発的活動」がある。

もちろん、これまでわが国で組織開発が行われてこなかったわけではない。先に述べた飲み会や社員旅行、運動会などは、職場のコミュニケ―ションを活発にすることに役立ってきた組織開発的活動であるし、特に製造業の現場では、チームワークを強固にし、居甲斐(いがい)のある職場をつくる上で、極めて重要であった。

ただ、当然だが、こうした活動は働き方改革の時代には難しくなる。例えば、子育て中の社員では、終業後の飲み会や宿泊を伴う社員旅行などへの参加は難しくなるだろうし、ワーク・ライフ・バランスを重視するミレニアル世代(編注:1980〜1990年代半ば生まれの世代)の社員が参加しない可能性もある。さらに、価値観が多様化する中で、たとえこうした活動を実施したとしても効果が薄れる可能性もある。

必要なのは三つのキーワード

考えるべきことは3点だと思う。まず第1は「目的の明確化と限定」である。これまでの活動は、長期雇用を前提として全体的に組織所属感を高めるものが多かった。また、社員旅行など大掛かりなものが多かった。今後必要なのは、人間関係の構築、コミュニケーションの円滑化など、特定の目的をもった限定的な訓練である。かける時間も短時間に凝縮するのがよい。一生の付き合いをするわけではない人たちと、必要なレベルのコミュニケーションができ、信頼関係を築くことを目指した活動である。例えば、新人との人間関係構築を目指した昼のランチや2〜3時間のワークアウトなどだ。こうした活動であれば、参加のしやすさも増大し、成功する可能性も高まる。

第2が「実務との連動」である。これまでの活動は、飲み会や旅行など実務を離れて行われることが多かった。そのため、ワーク・ライフ・バランスを重視する社員は積極的に参加する意義を見いだしにくいし、また、参加できない人も増えてくる。実務との連動は、参加の合理性を担保する意味でも、可能な限り多くの人が参加できる意味でも重要である。例えば、最近多くみられるようになった"テーマを絞った頻繁で短いミーティング"などは実務と連動しており、大掛かりな準備をしなくても参加でき、繰り返しの中で人間関係を構築する上でも役に立つ。結果として、必要なときに必要なコミュニケーションをさっと取るための組織が開発される。

そして第3が「個の尊重」である。コミュニケーションや信頼という言葉の前提にあるのは、一人ひとりが尊重されており、個の意見や考え方が尊重されているという感覚である。それがないと信頼も生まれないし、そもそもコミュニケーションを取ろうという意欲さえ萎(な)えてしまう。これまでの活動は、あまりにも集団への帰属を重視しすぎたのではないだろうか。これからの組織開発活動は、可能な限り個が大切にされるものでなければならない。個の意思を尊重しながら、多くの社員が自発的に参加できるようにする。そうした工夫と小さな活動の繰り返しが求められる。

働き方改革の時代、組織開発にもリニューアルが必要なのである。

下のボタンからPoint of viewバックナンバー一覧がご覧いただけます//
src=