(角 直紀 著 中央経済社 2020年4月)

 

 自社の人事管理は本当にうまくいっているのか――組織人事コンサルタントによる本書では、人事施策の企画から実行までの最適解を導くための課題解決プロセスを、「第Ⅰ部 人材フレーム」「第Ⅱ部 人材マネジメント」「第Ⅲ部 人事機能」の三つの領域における各三つ・計九つの事例を通して解説しています。

 九つの事例(実際にあったものを複合して構成)の課題解決へのプロセスは、おおよそ、①事実の把握、②原因の掘り下げ、③課題の明確化、④打ち手の検討→実施という流れになっていて、各領域にまとめの章を設けてポイントを整理しています。

 例えば、第Ⅰ部で取り上げられているのは、次の具体例です。

・職能資格制度から仕事ベースの人事制度への移行に際し、「ベストプラクティス」であると考えて導入した制度が実情に合わず、運用段階で骨抜きとなったため、自社にとって「ベストフィット」である制度に修正したA社のケース(第1章)

・全国転勤のある総合職とは別に地域限定総合職制度を導入したもののローテーションに支障が生じ、総合職の在り方から見直すことでコース設定を修正したB社のケース(第2章)

・ダイバーシティ推進計画を立てたものの関係者の足並みがそろわず、組織のアイデンティをどこに置くかトップに確認した上で、改革シナリオを練り直したC社のケース(第3章)

 第Ⅰ部はいずれも「人材フレーム」の見直しを迫られたケースですが、そのまとめの章(第4章)では、人材フレームは組織文化と密接に関わっているとして、組織文化を捉える3段階モデルとして「制度・ルール」「方針・戦略」「価値観・行動様式」の三つのレベルを挙げています。
 そして、A社のケースは制度レベル、B社のケースは方針レベル、C社のケースは価値観・行動様式レベルにそれぞれ問題があったとし、このように課題がどのレベルか見極めた上で、その課題の解決を考えていくべきだとしています。

 第Ⅱ部では、いずれも「人事マネメント」の課題として、部下を叱れない上司(第5章)、成果主義に賛成しつつも差をつけない評価者(第6章)、名ばかりで実態が伴っていない「次世代幹部育成」(第7章)といったケースと、それらをどうやって克服したかが紹介されており、ここでも、打ち手を講じる前に課題のレベルを見極めることを説いています(第8章)。

 さらに第Ⅲ部では、「人事機能」に関する課題として、研修制度で本来受けるべき人が受けていないケース(第9章)、不祥事があり、人事部が組織改革に取り組まなければならないケース(第10章)、働き方改革実現において社内の足並みがそろわなくなったケース(第11章)を提示。それぞれに課題克服のプロセスを示すとともに、まとめの章(第12章)では、デイビッド・ウルリッチが『MBAの人材戦略』で示した人事の「四つの役割」を解説し、人事機能をめぐる日本企業の課題とこれから取り組むべきことを示しています。

 ケースがいずれも実際にありそうなものばかりで、社内政治を含めた現実的な課題解決のプロセスが体系的に整理されている点が良いと思いました。
 世間で「良い制度」と言われているものが必ずしも「自社最適」とは言えず、では、理想と現実の間の溝をどうやって埋めるかというのは、多くの人事パーソンが直面する問題かと思いますが、自社にとっての「良い制度」として定着させるにはどこから着手すればよいかを考える上でヒントを与えてくれる本です。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2020年5月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき
 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー

 


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