鈴木琢哉

デロイト トーマツ グループ
ヒューマンキャピタルコンサルティング シニアマネジャー 

ポイント

❶新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、デジタル化の流れにより、組織マネジメントのパラダイムシフトが求められている

❷ピラミッド型組織からフラット型組織への移行に伴い、管理職の役割が変わる[図表1〜2]。

❸流動性・不確実性の高い時代における人材管理は、人を管理して区分するスタンスから、人と人をつなげるスタンスへとシフトしていく[図表3〜4]

1.組織マネジメントにパラダイムシフトを

 随分前から、「企業を取り巻く環境変化は、年々大きく、激しくなっている」と言われてきた。実際、多くの企業が生存競争を勝ち抜くためにさまざまな打ち手を講じてきたが、ここに来てどの企業も「本気で」「会社全体で」変わらざるを得ないと実感しているのではないだろうか。
 その変革トリガーは、直近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)であり、前後10年のスパンで見ればデジタル化である。
 COVID-19は、ビジネスの浮沈はもちろん、個人の働く環境にも強制的なシフトを迫った。デジタル化は今後の変革ストーリーの主役にふさわしく、各社のDX予算は増え続け、モノ・機能からコト・サービスへと範囲を広げ、存在感を増すばかりである。
 企業がさまざまなテーマに対応していかなければならない中、本稿では特に「組織マネジメントにおけるパラダイムシフトの必要性」について、コンサルティング事例を交えながら考察をしていきたい。

2.パラダイムシフト1−高層型組織から低層型組織へ(ピラミッド型組織は過去の常識となるか)

[1]背景
 数年前からフラット型組織、プロジェクト型組織、ネットワーク型組織といった新たな組織形態がホットな話題となっている。
 一方、これまで多くの企業では「新卒一括採用」や「年功序列や終身雇用」といった家族主義的なメンバーシップ型雇用を背景に、職能基準による「エスカレーター型キャリアパス」を敷き、「ピラミッド型組織」を形作ってきた。
 規模が大きくなればなるほど、ピラミッドは高くなるばかりだが、これら「高層型組織」の企業は、上記のトレンドの変化に対し、今後どう取り組んでいったらよいのだろうか。

[2]課題1:人材不足による地盤沈下をどう回避するか
 中期経営計画策定の一環として、人員構造シミュレーションを行うことがあるが、とあるプロジェクトで、20年後のシミュレーションをした結果、「10年後には既存ポストの成り手が不足する」という結果が得られた。
 キャリアの行き詰まり(上位ポストが諸先輩方に占拠されて、若手が上がれない状況)は、最近は聞かなくなってきたが、逆に「まだ未熟な若手にポストを任せざるを得ない」という"地盤沈下"が起きることは、遠くない未来として想定・準備しておかなければならない。
 さらに付け加えるならば、「次世代リーダーの育成が重要」といった課題を掲げる企業は多々あるものの、未熟な人材に企業のかじ取りを任せなければならない事態を想定して対策を立てている企業は、まだ少数ではないかと推察する。

[3]課題2:肩書でコントロールする時代からどう脱却するか
 近年、フラット型組織(管理職を置かない組織)をデザインする相談は増加傾向にある。フラット型組織では、一昔前であればそれなりの役職・肩書を持っていた方が、何の肩書も序列もない中で、年齢も経験も一回り下のメンバーとフランクにコミュニケーションを取り合っている。このような光景を目にすると、むしろ自分こそが古い意識に縛られていたのかと目の覚める思いがするし、ここで行われる議論が極めて建設的で価値の高い結論につながっていることに驚かされる。
 一方、(私も事業会社時代に経験したが、)重厚長大な組織構造を持つ企業では、課長・部長と階層ごとに段階的に議論を重ねていく。これはこれで吟味に吟味を重ね、熟成されたアイデアが段階を踏んでより高められていくよさがあるものの、スピードが遅い。
 どちらの企業も企業競争力を維持していく上で、よりフラットな組織を目指す価値はあるのではないかと考える。

[4]課題3:中間管理職のマネジメントスタイル変革は急務
 COVID-19の影響でリモートワークを余儀なくされている昨今、メンバーの育成や評価、勤怠管理をどう行えばよいかという相談が増えてきた。
 これまでは目の届く範囲で業務の進捗(しんちょく)状況を把握できていたが、部下の姿を直接確認できなくなったことで、管理が難しいというのだ。
 実は、何十年も前から、海外展開している企業における海外駐在員の人事管理として、この課題は別段目新しいものではないが、いま再び脚光を浴びている。
 以前から、在宅勤務にしろ、事業場外みなし労働時間制にしろ、管理監督者の監視下を離れて業務を行う場合、上司と部下との間での約束事と部下の自律性は必要であり、「入社3年以内の社員は在宅勤務禁止」といったルールを設けている企業もあった。
 それが現在、新入社員でもリモートワークを強いられているため、「目が離せない社員」の管理が難しいというわけだ。
 今回は、この課題を解決する手段を属人的な上司の部下管理スキルではなく、組織の枠組みにこそ糸口があるという視点に立ち、解決策を考えたい。

[5]課題4:情報発信を自己満足で終わらせないためには
 「情報格差の逆転」は既に古い言葉となり、価値ある情報はマネジメントではなく現場にあることが常識となり、SFA(Sales Force Automation 営業支援システム)や1on1(上司が部下の育成のために行う個人面談)など各企業は現場から情報を吸い上げることにさまざまな取り組み・工夫を行っている。
 一方、上位層から下位層に発信するメッセージ・情報開示については、多くの企業が「トップメッセージの発信(ブログ、SNS等)」や「意思決定プロセスの透明化(経営会議の内容開示)」といった取り組みを行っているが、今一つ効果が出ていないことも多い。「ブラックボックスで不透明だからオープンにしてほしい」など意識調査で挙がった意見への対応策といった意味合いかもしれないが、こういった意見の多くは、実は「開示してほしい」のではなく、「意思決定の結果に腹落ちしていない」ことが多い。前述した積極的な開示は解決策として「ズレている」可能性がある。
 高層型組織になればなるほど、このような意識のズレは大きな課題として捉える必要があるだろう[図表1]。
 既に高層型組織を構えている企業の方々に対し、いきなりフラット型組織への転換を勧めているわけではない。ここでは、組織運営上の都合や既得権益を考慮しながら、どのように前述したフラット型組織の強みを採り入れることができるかを考察したい。

[図表1]ピラミッド型組織からフラット型組織へ

[6]中間管理職はプレイヤー9割、マネジメント1割でちょうどよい
 「あなたが稼ぐのではなく、あなた以上に稼げる人をたくさん作ることがあなたの役割ですよ」とは、管理職研修の場でよく聞かれるメッセージだが、今後そのような役割を目指したい人は減っていくと考えられる。むしろ、より専門特化していく時代においては常に最前線で陣頭指揮を執る人材でないと組織は一つにまとまらない。
 これは、組織管理者のあるべき姿からすると問題とされてきたが、これこそデジタル時代に求められる真の姿である。
 組織運営とは、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を活用して組織を継続的に成長させていくことだが、今後デジタルの活用が進めば、この組織管理業務は絞り込みが可能になる。
 予算管理や目標管理といった管理業務はデジタルの活用により、パラメータ設定を行うことで将来予測まで瞬時に出せるようになった。以前より戦略的な検討に時間を割けるようになった企業も増えている。
 また、新人からベテランまであらゆる階層の人材を管理しなければならない課長層においては、管理対象(人材)を絞り込み、一部の育成対象層に対してのみ業績管理や評価や育成を行い、それ以外の人材は、「Individual Contributor(IC、特定の専門性で業務を遂行する人)」として管理対象から外すことが、組織をより強力に推進していく原動力になると考える。
 自律的に動ける人材は、組織の管理下に置かず、組織に縛られず対等な関係で自由に活躍できるよう最大限の裁量を与えて、組織階層によって生まれた煩雑でノンコアな業務に忙殺されない、成果に重視した専門的業務に全精力を投下できる仕組み(組織構造)とする。
 こうすることで、組織管理者は今後も増えるリモート下における細やかなマネジメントや人材を"促成栽培"するための手厚い指導を重点的に行えるようにするのである。
 「部下にはまだ早い・できない」という考えは思い込みに過ぎず、「部下のチャンスを奪っている」と捉えて、自らブレーキにならないこと。具体的には、本人の自立性をそいでいると思われるルール・承認プロセスを削減していくことが重要である。
 流動性の高まりにより、市場で通用する「Special One」になりたいといった人材や、人材の志向変化により、上を目指すのではなくユニークな存在になりたい、やりたいことに没頭したいといった人が増えてきた中、管理職はいつまでも人材を組織の中で管理しようとせず、どんどん組織の外に送り出していく機関となるべきであり、そのために、まだ自立できていないメンバーの育成機会・効果の拡大に尽力し、いかに迅速に、育成対象者をIndividual Contributorとして自立させ人事管理の外に持っていけるかに腐心すべきである[図表2]。

[図表2]管理職の役割や管理の質も変わってくる

 育成期間の短縮にはデジタルの活用が欠かせなかったり、自律人材のアウトプットにもデジタルが欠かせなかったりするなどハードルは高いものの、意思決定の遅さや情報のサイロ化(他との連携もしくは情報共有をせずに、組織全体の中で孤立してしまう状態)、昇格や昇給上の閉塞(へいそく)感、さらにはリモートワーク下でのエンゲージメント強化といった問題は解決できると考える。

3.パラダイムシフト2−人はくくらず(線引きせず)、つなぐ

[1]背景
 等級での序列化や正規・非正規の雇用区分、プロパーや中途といった区分け等、これまで人事機能は社員をいろいろな属性で区分し管理してきた。しかし、ジョブ型雇用といった動きや、個人の志向トレンド、さらにはギグワーカーといった単発で仕事を請け負う新たな潮流も発生している中で、流動性・不確実性の高い時代における管理の仕方を考えていきたい。

[2]課題1:労働力の境界をなくすには
 パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)、高年齢者雇用安定法(70歳までの就業機会の確保)、労働者派遣法(同一労働同一賃金や3年ルール)などさまざまな法改正に対し、どのように雇用区分を見直していくかについて相談を受けることが増えてきた。多くの企業はコンプライアンスの観点から粛々と取り組んでいるが、体力のない企業や正社員比率の低い会社からすると大きな問題ともなるため、深刻な相談として受けることもある。
 その中では、採用競争力を担保するために、多様性を前面に打ち出した雇用形態を整備する企業もあれば、正社員一本化の方向性にシフトする企業もある。どちらにしても社員や求職者のニーズをくみ取った(つまり法改正の方向性に準じた)対応だが、「人材ごとに枠を設けること」と「人材ごとに柔軟に対応すること」は大きく異なる。今後もいろいろな境界線が曖昧(あいまい)化していく流れを見据えて、組織・人材管理をどう描くかを考えていく必要がある。
 近年はギグワーカーの活用は特別なことではなくなってきた。デジタル人材に代表されるように、求められる専門性が高度に分化している昨今、外部人材の巧みな活用が前提となりつつある。今後、自前主義へのこだわりは、企業自らの首を絞めかねない。

[3]課題2:働き方の境界線をどこまで管理するか
 リモートでの就業を余儀なくされ、各人のオンとオフの区分が不透明になってきた。オフィスなどの職場においては、一ビジネスパーソンとしての立ち振る舞いが衆人環視の中で維持されてきたが、日常生活からビジネスへの切り替えが曖昧になった状態になると、一人ひとりのワークスタイルはより主体性が求められるようになってきている。前述したとおり、以前からテレワークという働き方は存在していたが、一部の職種や自律的に働ける上位層にのみ許可していた企業も多い。しかし、このCOVID-19下で、一部のエッセンシャルワーカーは別として、職種や階層を問わずリモートワークを余儀なくされており、スタッフによってはリモート環境で著しく生産性を下げたり、極度のストレスに陥ったりする可能性がある。こういった経緯から、ジョブ型・成果型で管理していこうとする企業や、より裁量を認め、本人の主体的な行動を促進していこうとする企業もあり、人事管理上の方向性は岐路に立たされている。

[4]課題3:人財の限界(可能性)を決めるべきか
 従来、人事制度を改革するときに最初に考えるのは、人材要件や等級定義であることが多かったが、最近では人を役割や職務で区分するアプローチを採らないケースが増えてきている。
 ノミの実験の話が有名だが、本来高く飛べるはずのノミも、小さな器に入れてしばらくすると、器がなくなった後もその高さまでしか飛べなくなるように、会社が定める「期待役割・必要スキル」という枠は、個人が自身の努力と成長機会によって、際限なく高みを目指す意識を損なわせてしまっているかもしれない。
 もちろん、組織である以上、最低限クリアすべきゴール水準を設けることは必要だが、それに縛られずに会社との合意の下にゴールを変えていくというスタンスも模索していく必要がある。
 [図表3]のように人材と人材の間に線を引いて身分の違いや可能性の限界を明示することは、果たして企業にとって本当にプラスになるのか。はたまた企業側の都合なのか。もし後者であるとすれば、あるべき姿とは何なのだろうか。

[図表3]管理の在り方も変容してくる

 「スクラム」という仕事の進め方(開発手法)をご存じだろうか。開発途中に顧客の意見を取り込み、成果の質をどんどん変えていく手法で、いわば「顧客=協働開発者」という捉え方である。今後、企業が共創ビジネスや顧客価値創出を突き詰めていく際に向かうべき方向であるが、このように、ボーダーレスへの変化は、人事管理だけでなく、「会社と顧客」の線引きも曖昧になってきている。
 また、マーケティングにおいても、購買喚起の手段はコマーシャルから口コミへと移ってきており、「顧客=広報・販売代理店」といった位置づけとなることで、売り手と買い手の区別はなくなっていることも付け加えたい。

[5]人と人をつなぐことが出発点
 イノベーションの創出、プロジェクト型組織運営、リモートワーク、エンゲージメント向上等々、近年の課題はどれをとっても従来の人事管理方針では立ち行かなくなってきている。
 これらを解決すべき打ち手の一つとして、人を区分し管理するスタンスから、いかに人と人をつなげるスタンスへとシフトするかが人事として重要になってきている[図表4]。

[図表4]コネクト時代を見据えて“つながり”を重視する流れに

 最近では、副業・ギグワーカーや20%ルール(自分の業務時間の20%までは、通常業務ではない仕事に使うことができる制度)を採り入れ、クロスファンクション(組織横断型の問題解決)の発想をビジネスに持ち込んでいる企業が出てきたり、社内での人材育成の限界にいち早く気づいて、出向やジョイントベンチャー(JV)を活用して人材育成を行っている企業もある。それらはいずれも「区分けされていた組織・人材」をつないでいる。ただ残念ながら、仕組みとして導入してみたものの、成果にまで行きついている企業はまだ少数である。
 「つなぐ」という行為は、やみくもに行えばよいというものではなく、対象となる人材を「タレント」として正しく可視化し、最適な環境・適切な機会を提供する必要があり、これにはデータ・情報の活用、ひいてはデジタルの活用が求められる。
 くしくも、現在、デジタルの世界では、5G(高速・大容量に加え、多接続、低遅延を実現する第5世代移動通信システム)、XR(VR[仮想現実]、AR[拡張現実]、MR[複合現実]などを含めたさまざまなリアリティ体験)等さまざまなテクノロジーが実証実験から実用化に向けて走りだしており、今後数年は「コネクト時代」「つながる時代」と目されている。仮にデジタル化に乗り遅れ、これまでと同様の育成スピードやサイロ化した人事基盤で運営していくようであれば、おのずと優秀な人材は流出していくし、生産性向上の放棄・イノベーション機会の損失によって業績向上も見込めないだろう。つまり、デジタル化の波に乗ることすなわち「つなぐ」方向にかじを切っていくのは自然な流れともいえる。

鈴木琢哉 すずき たくや
デロイト トーマツ グループ
ヒューマンキャピタルコンサルティング シニアマネジャー
建設エンジニアリング、SIer、人事コンサルティングファームを経て現職。組織設計や制度・ルール統制、現場改善・教育まで人材の変革を支援。直近はDX関連の変革サポートに従事。
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