70歳就業機会確保に向けて企業が今、準備すべきこと

藤原 崇 ふじわら たかし
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 大阪ビジネスユニット
組織人事戦略部 部長・プリンシパル

1968年生まれ、91年大阪大学法学部卒業、99年コーネル大学MBA取得。三菱電機株式会社にて幅広く人事業務に従事し、2002年UFJ総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。広範な実務経験と留学経験を活かした、理論と実践のバランスの取れたコンサルティングが強み。著書に『高年齢者処遇の設計と実務』(労務行政研究所編〔共著〕、労務行政)がある。

65歳定年の先にある70歳までの就労確保

 今年(令和2年)の通常国会で高年齢者雇用安定法の一部改正が行われ、「70歳までの就業機会の確保」が令和3年4月より努力義務として企業に課されることになった。一方で、多くの企業では、定年年齢の引き上げ法制化を見据えて自社の定年延長制度導入を検討する、また同一労働同一賃金の施行を受けて定年後再雇用された有期雇用社員と定年前の正社員の均衡処遇を図る対策を実施する、といった65歳までの社員の対応が先決であり、それ以降の雇用または就労確保をどうするかの検討はこれからというのが本音であろう。
 しかしながら、近年の法改正、特に雇用保険法や厚生年金保険法、国民年金法、企業年金法などの改正状況を見ていると、企業における雇用責務は長期化し、その処遇も企業の自助努力での引き上げが求められる方向性が垣間見え、70歳までの就労機会確保を見据えた人材マネジメントの在り方全体を考える時期に来ているといえよう。

「多様性」が高年齢者活用の鍵

 それを考える上で、まず今回の「70歳までの就業機会の確保」に関する努力義務の内容を確認する。今回の法改正では、企業に求められる65歳までの雇用義務──①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の廃止に加え、労使合意・本人希望を前提に雇用以外の措置が選択肢として認められている点が特徴である。これは同改正に関する労働政策審議会の「建議文※」に示される以下の考え方が背景にある。

 65歳以降の者については、就労に対する考え方のほか、体力や健康状態その他の本人を取り巻く状況等が、65歳以前の者と比べても個人差が大きく、より多様なものとなるため、企業に対して70歳までの就業機会の確保を求めるに当たっても、こうした事情に配慮した制度設計とすることが重要である。

※「高年齢者の雇用・就業機会の確保及び中途採用に関する情報公表について」(令和元年 12月25日)

 この"「多様」性"という概念が、高年齢者雇用を考える上で鍵になると考えられる。多くの個人にとって、40代など一定年齢までは生活に占める仕事や労働の比重は相対的に高いが、高年齢者層においては、働く個人としての気力・体力、職務遂行能力の差異が大きくなり、また親の介護や子の年齢、自身の財産形成状況など複雑に多くの要素も絡んで、個人の仕事に対する取り組み姿勢や価値観も大きく多様化していくものである。
 したがって、70歳までの長期にわたる就業機会を考える際には、若年層での働き方や配置・処遇等の取り扱いを継続するのではなく、千差万別な個人の就労ニーズや労働観を踏まえて多様な対応を想定すべきであり、そのほうが企業の事業継続における人材ニーズとのマッチングも容易になると考えられる。そして、今回の新型コロナウイルス感染症対策や副業・兼業の導入など働き方自体の多様化は大きく進んでおり、選択肢の設定拡大は容易になっている。

多様な価値観を育む取り組み

 しかしながら、多くの日本企業では、個々の社員の状況に合わせ就労内容やそれに対する処遇を個別対応していくことは、今一つ苦手ではないだろうか。濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長)が指摘するように日本企業は大半が「メンバーシップ型」雇用を前提としている。そこでは新卒一括採用を前提とし、どうしても集団主義的で年功的な横並びの処遇設定に終始しがちで、人事部も統一的な処理を用いて対応を効率化しているケースが多く、個々のケースに対する是々非々の対応に慣れていない。
 したがって、より長期化・多様化する個人の職業人生を踏まえると、企業は社員に対して、そのキャリアの早い段階から個別対応の処遇を合理的な説明をもって適用していく人事運用に今後切り替えていく必要がある。「同期が昇格したのに、なぜ自分が昇格できないのか?」という問いに対し、安易に横並びで昇格させる対応を行うのではなく、昇格できない理由をもって、異なる処遇を貫徹するような運用が求められるのである。

「ジョブ型」への制度改定や多様な人材採用の実施

 具体的な取り組みとしては、制度面ではいわゆる「ジョブ型」的な処遇決定要素を強めていく必要がある。現在の職務や役割に基づく処遇を拡大することで、属性や帰属に関わらない個別に異なる処遇決定を適用する素地を広げておくことが、多様な人材活用や処遇を受け容れる組織風土の醸成につながるはずである。毎年昇給する職能給などではなく、職務に応じて固定された役割給や職務給の比率を上げていくことが求められる。
 また、社員側の意識の面では、ある種会社と対等なキャリア意識を醸成させる必要がある。会社が用いる処遇差の説明にどうしても納得できない場合には、「自己の身の処し方をどうするのか?」「現職以外の新天地を求めるのか?」「現状を受け入れるのか?」など、会社に委ねるばかりではなく、ある意味対等な立場として社員も主体的に考え、大人としての行動を選ばない限り、個別の処遇差を受け入れる風土は成立しないであろう。そのためには、自律的なキャリアを考える機会を研修や日常の人事面談等で取り入れていくことも有効である。また、多様な人材を採用することも、社員の視点や考え方を大きく揺さぶることにつながる。異なる業種からのキャリア採用の拡大や女性、障害者、外国人採用の拡大は自然に社員の目を開くことになるであろう。
 70歳までの長期の職業人生においては、企業と個人の関係性は変化し、その都度、双方が内容に関し説明責任を尽くして合意形成を行わない限り持続は難しいであろう。そのため、企業は個人ごとに異なる処遇内容の合理性を高めること、そして社員が能動的に自己のキャリアを考え、企業からの説明を受容するかどうか自己決定できる意識を持てるような風土醸成を行うことが、今からできる取り組みではないだろうか。

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