離職者との「縁」をいかに結べるか
―コーポレート・アルムナイの効果

小林祐児 こばやし ゆうじ
パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員

上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て現職。専門は理論社会学・人的資源管理論。主な共著に『転職学講義』(仮題・3月刊行予定)(KADOKAWA)、『ミドル・シニアの脱年功マネジメント』(労務行政)、『残業学』(光文社新書)、『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』(ダイヤモンド社)など。

 「終身雇用崩壊」のスローガンが、コロナ禍によって鳴り響き続けている。自社の経営状況に不安を感じた労働者は、転職先を探しているし、希望退職募集も大きく増加した。コロナ・ショックは企業と労働者の関係を大きく揺らしている。
 しかし、「離職」や「転職」など、雇用関係の終わりがすべてネガティブなものになるかというと、そうではない。コロナ禍以前から、大手企業を中心に、「コーポレート・アルムナイ」への注目が集まってきた。アルムナイとは「同窓生」の意味。もともとは大学などの教育機関の卒業生の集まりを指すが、それが企業の退職者に対する考え方へ拡張されてきた。つまり、退職によって自社との雇用関係を離れた従業員と継続的につながり、離職者、そして離職者同士のネットワーキング活動を推進していくことを、日本企業がようやく考え始めている。
 背景にあるのは、構造的な人手不足だ。コロナ・ショックがあろうとも、労働力人口が今後大幅に減っていく構造は変わらない。出生率はこれまでの予想以上に下がり続けており、コロナ不況からの回復期にはまたすぐに人材獲得競争は激化する。

「出戻り」採用の制度化の流れ

 アルムナイ・リレーションを構築することの企業のメリットとして最も直接的なのは、一度組織を離れた後の「再入社」の促進だ。「出戻り入社」「ジョブ・リターン」「カムバック」などと呼び方はさまざまにあるが、再入社制度のオフィシャル化は日本でも、ここ10年ほどで大企業中心に一気に進んできた。筆者らの調査によれば、こうした制度の導入率は全体では8.6%だが、5000人以上の大企業では20.2%に上っている[図表1]。退職者向けイベント、サービス優待なども先進的な企業から試みが続いている。

[図表1]離職者向けの制度・施策(全体平均と5000人以上比較)

資料出所:パーソル総合研究所「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査」(2019年)([図表2]も同じ)

 同じ会社への再入社は、企業・従業員ともにメリットが大きい。企業は人材紹介費などの採用経費がほとんどかからない。また、その企業の人脈や業務・風土などを既に経験している社員を迎えることは、業務の面でも立ち上がりがスムーズだ。再入社した従業員側の調査からも、「仕事内容が事前にイメージできた」(42.7%)、「周囲が出戻りを歓迎してくれた」(38.7%)となっており、業務、そして組織へのスムーズな再参入が行われていることがうかがえる。

離職者はなぜ「裏切り者」なのか

 辞めた企業への再入社は、こうした制度を整備せずとも、インフォーマルな形でずっと行われてきた。なぜ、これまで離職者は歓迎されず、再入社は制度化されてこなかったのだろうか。その理由の一つは、疑似共同体としての側面の強い日本の企業組織風土にある。流動性が低く、従業員のメンバーシップを重視する日本企業は、辞めた従業員を「裏切り者」とみなす風潮が強い。これは単なる「ムード」の問題ではなく、再入社後の「処遇」の問題にまで関わる。
 大手企業の中には、長く働き続けている従業員の心情を気にして、離職時よりも一つ下の等級や処遇で復帰させる不文律を持つ企業がある。先述の調査によると、1000人以上規模の企業に再入社した者の17.7%が、以前働いていたときより職位が下がり、32.9%が年収が下がっている[図表2]。

[図表2]従業員規模別の処遇

「校内マラソン」型人事からの脱却を

 筆者は、日本の大企業の人事管理を、「校内マラソン」に例えることがある。新卒未経験というスタート地点から「よーいドン」で走り出し、「同期」という仲良しグループで固まりながら、あまり差のつかない長いランニングを経て、徐々にトップ集団から振り落とされていく。このマラソンが「競技」としての正統性を維持できるのは、走り始めた「スタート地点が同じ」であることだ。
 そうした構造を持つ組織において、出戻り入社とは「一度抜けたマラソン」にもう一度戻るようなもの。校内マラソンに「戻ってきた」選手がトップ集団に復帰してしまっては、これまで「一斉スタート」によって確保してきた競技としての正統性を揺るがす。先ほどの処遇低下という問題は、その一端を示しているように思う。
 しかし、この「校内マラソン」型の人事管理は、すでに時代遅れだ。一度外に出て、「他社」において新しい経験を重ねた再入社者に価値を与えない理由は見当たらない。経験・スキル・人脈などをトータルで見て、改めて処遇を決定するのが適切だ。
 アルムナイとの継続的関係を構築することには、直接的な再入社や交流だけではなく、ビジネス上の取引や消費者としてのサービス・商品の取引など、労使ともにさまざまなメリットがある。「再入社制度」をきっかけとして、今では過剰に高い組織への出入りのハードルを下げることによって、企業と個人の硬直した関係は今よりも柔らかいものになっていくだろう。

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