採用担当者は学生のガクチカとどう向き合うべきか

石渡嶺司 いしわたり れいじ
大学ジャーナリスト

東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。大学・教育・就職・キャリアの取材、執筆、講演、メディア出演が中心。主な著書に『就活のワナ あなたの魅力が伝わらない理由』(講談社+α新書 2021年1月刊行)、『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『就活のバカヤロー』(共著、光文社新書)、『改訂版 大学の学科図鑑』(2021年3月刊行予定 SBクリエイティブ)など。

ありきたり、とため息が出る理由

面接担当者「あなたが学生時代に頑張ったことを教えてください」
学生A「はい、私はコンビニエンスストアのアルバイトを頑張りました。始めてから2年目にアルバイトリーダーとなり、売り上げを伸ばすことに成功しました」
学生B「私はサークルの部長としてリーダーシップを発揮しました。この経験を御社の管理部門で活かしたいです」
学生C「私はゼミ活動に力を入れました。資料を収集したうえで選択し、ゼミ論文にまとめたところ、学内で高い評価を受けました」
面接担当者「…。はい、皆さん、ありがとうございました。それでは次の質問に移ります(今年もこのありきたりなガクチカに付き合う時期になったか…)」
 学生の代わり映えしないガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」の略)にうんざりする採用担当者は多いでしょう。本稿では、採用選考がガクチカ重視に変化していった歴史的な背景、ガクチカに対する学生側の誤解、そして採用担当者がガクチカをうまく引き出す方法、この3点について解説します。

ガクチカの定着とその小史

 面接におけるガクチカは、日本に大卒新卒採用が定着した大正〜昭和初期にはすでに類型的な質問の一つになっていたと推定されます。同時期に刊行された就活マニュアル本には、面接でスポーツをしたかどうか、など学生時代を問う内容が掲載されています(『就職戦線をめがけて』半沢成二著、金星堂、1929年など)。
 就活市場において、ガクチカという用語自体が定着したのは2000年代に入ってからのことです。これは、選考の初期段階が面接重視から書類(エントリーシート)重視に変化したことが背景にあります。
 日本では、1980年代まで選考書類と言えば履歴書でした。もっと言えば、選考は実質的には面接が中心。履歴書は選考では補助的なものにすぎませんでした。
 それが変化したのは1990年代以降です。1991年にソニーがエントリーシートを導入したことをきっかけに、選考書類としてのエントリーシートが就活市場に定着していきます。
 特に就職協定が廃止となった翌年の1997年以降は、書類選考を導入する企業が大幅に増加します。『就職ジャーナル』1997年5月号の企業アンケート調査によると、「学生が採用の土俵に乗る条件は?」の問いに「セミナーもしくは説明会への参加」69.2%に続いて「書類選考への応募」43.2%となっています。前者は前年が81.5%なのでやや減少しているのに対して、書類選考は前年12.3%だったことを考えると、この年が書類選考導入のターニングポイントだった、と言えるでしょう。
 その背景には、事前チェックとコスト削減があります。
「(エントリーシートは)学生が企業に必要な人材か否かを事前にチェックしたいのである。企業は、これまで資料請求カードや会社訪問カードで入手していた『新卒者の人材情報』を学生自らに書かせ、それをプールしてじっくりと採用者を選考しようとしている。企業は、エントリーシートという紙の上で、第一次面接をするのと同じ効果を期待しているといえるのだ」(『差をつけるエントリーシートの書き方<2000年版>』面接合格指導会編、有紀書房、1998年)
「まず第一にあげられるのは、採用コストの大幅な削減が実現できること。第一次試験で、書かせる採用試験を実施することで、大手だからなんとなく応募してみたという志望意欲の低い学生を排除することができる。そのため無駄な面接を行わずにすみ、人事担当者の人件費や面接会場費などの様々な経費削減に成功した」(『国文学 解釈と教材の研究』2000年2月号「就職のためのエントリーシートと論作文」松下佐和子)
 選考書類としてのエントリーシートが定着すると、定番の設問となったのが、志望動機、自己PR、それからガクチカです。この3点は、1980年代以前には面接でも出ていた質問項目でしたが、エントリーシートの定着とともに、ガクチカは書類選考でもよく聞かれる項目となり、現在に至っています。

志望動機重視からガクチカ重視の時代へ

 書類選考で定番になったものの、2000年代までは、ガクチカはエントリーシート・面接のいずれでも、最重要項目ではありませんでした。一番重視されたのは他でもない、志望動機です。志望度の高さを重視するという点から、学生・企業の双方がこだわりました。
 この志望動機重視からガクチカ重視に変化していったのは、2010年代に入ってからです。そもそも、志望動機は対策しようと思えば、いくらでも対策できてしまいます。しかも、エントリーシートの定着や就職氷河期の長期化もあって、就活本市場が拡大。2000年代以降は、毎年、数十冊以上もの就活マニュアル本が刊行されるようになりました。これは2010年代の売り手市場でも変わりません。
 こうなると、採用担当者は量産された志望動機を読まされる(または、聞かされる)ことになります。2012年1月25日付けの日本経済新聞電子版・日経就活探偵団2013「志望理由に悩んだときどうする?」には、
「『(社会経験のない学生が)もともと当社を深く知っているとも思えない。どの学生も似たような志望理由を言うのは、ある程度仕方がない』という。これは各社共通のようだ」
との、アパレルメーカー・グンゼの採用担当者のコメントが掲載されています。現在の就活生が大学どころか、中学生だった時点でこうした内容が出ていたのです。その後、大企業を中心に志望動機の軽量化が進みます。具体的には、志望動機と自己PR・ガクチカの分量に差を付ける、そもそも志望動機をESの設問に出さない、志望動機の欄のないリクナビ・OpenESを使用する、などです。
 また、私が取材したところ、「志望動機の欄は残してはいるが、書類選考段階では読み飛ばしている。じっくり読むのはガクチカと自己PR」「保存用の履歴書は内定後。選考段階では他社向けのエントリーシート・履歴書のコピーで構わない、と伝えている」などの意見もありました。
 もっとも、中小企業を中心に、いまだに志望動機を重視する企業があるのは事実です。ただし、そうした企業ほど新卒採用がうまくいっていないように見受けられます。理由は簡単で、「中小企業の合同説明会でちょっと気になるから選考を受けてみたい。が、企業に対してその程度の知識しかないので志望動機が書けない」と学生は考えるからです。この悪循環から解放されるには、初期選考では志望動機を重視しない、志望動機軽視・廃止論が必要、と考えています。が、これは本題のガクチカとは無関係なので、また別の機会にでも。

ありきたりの理由は実績・即戦力という学生の誤解

 さて、このガクチカは、読者の皆さんもご存じの通り、実にありきたりです。
 あまりの単調さから、採用担当者の方が大学キャリアセンター主催の就活イベントなどに登壇すると、「就活生のガクチカは、アルバイトかサークル、ゼミに留学ばかり。同じ話でうんざりする。ありきたりなエントリーシートはやめてほしい」といった、ありきたり・うんざり論を展開されます。
 この意見は正しいのかと問われれば、半分は正解です。就活生の書くガクチカは、アルバイト、サークル、ゼミ、留学などほぼ内容が決まっています。その点をもって、ありきたりとするのは無理もありません。
 では、何が不正解かと言えば、アルバイトやサークルを書いたらダメ、という話ではないという点です。と言うのも、内定学生のエントリーシートを見ると、アルバイトやサークル(あるいはゼミ、留学)など、まさに採用担当者がありきたりとしている内容なのです。
 アルバイト、サークルなどを書けば「ありきたり」とされる。一方、内定学生のエントリーシートは、そのありきたりなはずのアルバイトやサークルについて書かれている。この謎は、就活生の「企業は実績・即戦力重視」という誤解から来ています。
 私は、10年以上にわたって、取材を兼ねて就活生のエントリーシートを年300人近く、無償で添削しています。これは中小企業の採用担当者が毎年読む数とほぼ同じか、若干少ない程度と推察します。これに、各大学キャリアセンターが発行する就職体験記や内定学生のエントリーシート文例集なども読んでおり、エントリーシートについては一家言あります。
 その経験から申し上げると、学生は新卒採用を「実績・即戦力重視」と誤解しています。この誤解から、就活生はやたらと実績や成果をアピールしようとするのです。本稿の読者はご存じのように、日本の大卒新卒採用はその多くがポテンシャル採用です。学生の実績・成果をもって、すぐに戦力になるかを確かめているわけではありません。ところが、就活生はこの事情をなかなか理解しないため、以下の例のような実績・成果重視のガクチカが跳梁(ちょうりょう)跋扈(ばっこ)することになります。

例1)「私は〜というアルバイトでリーダーとなりました。その結果、売り上げを150%、増加させました」

例2)「私は●●部でレギュラー昇格を目指しました。〜その結果、レギュラー昇格をしただけでなく、チームの3部昇格に貢献しました」

 例1のアルバイトなら、売り上げを伸ばしたことよりも、働いていた間、どんなことにこだわったのか、あるいはどんな苦労があったのか、そこが重要です。
 例2の部活も同じです。レギュラー昇格とか、リーグ昇格(あるいは大会での好成績)はどうでもいい話です。それより、この例でもこだわりや苦労の方が採用担当者は読みたいことでしょう。
 この実績・成果重視という誤解、それと重要なはずの経過の軽視、この二つが多くの学生のガクチカをありきたりなものにしているのです。

ポジティブ誤解とネガティブ誤解、それぞれの言い分

 就活生はガクチカを「実績・成果重視で書かなければならない」と誤解しているだけではありません。就活生がガクチカをうまく表現できなくなる原因として、私がポジティブ誤解・ネガティブ誤解と命名している2方向のパターンがあります。
 ポジティブ誤解は、能力の高さから「頑張っていないし、苦労したわけでもない。だからガクチカは書けない」と誤解してしまうことです。例えば、笑顔が良くて気さくでアルバイト先では客からも店長・運営スタッフからも高く評価されている学生がいるとしましょう。営業を任せたらすぐエースクラスに成長しそうな学生です。しかし、当の学生は「『気さくでいいね』とよく言われますが、それって自然な話で、そこまで頑張っているわけではないです」などと、ガクチカに出そうとはしません。結果、ありきたりな内容のために就活で苦戦してしまうのです。このタイプの学生は能力の高さが特徴で、それでいて就活序盤では書類選考落ちが相次ぐ傾向にあります。
 一方、ネガティブ誤解は自己肯定感の低さから来ています。よく話を聞いていけば、しっかりとしたガクチカのエピソードがありますが、それを引き出すまでに時間がかかってしまうのです。そのため、書類選考はもちろんのこと、グループ面接でも深掘りできず、就活で苦戦してしまいます。
 特徴としては、言い訳が先行してしまい、質問内容に的確に答えない点が挙げられます。たとえば、「サークル活動はどれくらいの期間、続けましたか?」であれば、「1年」「3年」などと期間を回答するのが一般的です。しかし、ネガティブ誤解の就活生は、「去年はコロナの影響でほとんど活動できませんでした。私はなんとか続けようと思ったのですが、大学が入構禁止となってしまい(以下略)」など、言い訳が先に来て、最後に「それも含めれば3年です」など、回答が出てきます。
 このポジティブ誤解とネガティブ誤解は、両方抱える学生もまれにいるので注意が必要です。

学生のガクチカはどう引き出すべきか

 経過重視ではなく実績・成果重視というガクチカ全体への誤解。さらに、ポジティブ誤解とネガティブ誤解など、ガクチカは単純な質問のようで実は複雑です。
 それでは、採用担当者は就活生のガクチカにどう向き合えば、自社の将来を託すに足る人材を見極められるでしょうか。
 私からの提案は、「経過重視の強調」「ガクチカからガクナガへの変更」「他者評価の深掘り」の3点です。
 まず1点目ですが、セミナー・説明会などで就活生には「学生時代の実績は誤差の範囲内だし、エントリーシートに書いてもそこまで気にしない。それより、経過を丁寧に書くようにしてください」などと、就活生に伝えるようにしてください。
 2点目の「ガクナガ」は「学生時代に長く続けたことは?」の略です。「半年以上続けたことは何ですか? なお、目立った実績等は出さなくて結構です」と質問してみてください。まれに、どうしても半年以上、続いたものはない、とする就活生もいるでしょうから、その場合は、3〜4カ月でも構いません。こうすれば、ポジティブ誤解の就活生も、自身のエピソードを書いたり、答えたりすることができます。
 3点目の他者評価の深掘りについては、面接で質問してみてください。例えば、「ゼミで大学の先生はあなたのことをなんと評価していましたか?」「アルバイトで店長や客はあなたのことを何と言っていましたか?」などです。ここから意外なエピソードが聞ける可能性があります。特にネガティブ誤解の学生には効果が期待できます。
 現代は、単純に「学生時代に頑張ったことは何ですか?」と問いかけるだけでは、就活生の良さが引き出せない時代となりました。ガクチカの複雑さを理解した上で、採用担当者側がそのガクチカをどう引き出すのか、工夫が求められる時代です。本稿がその一助となれば幸いです。

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