前かがみがちで姿勢が悪く、1回の呼吸が浅い、という人が急増中! それを放置しておいたがために、体の隅々の細胞が酸素不足で苦しんでいる可能性が高いのですーー。

「最近はスマホやパソコンの長時間使用が日常的になり、IT猫背とも言われる前傾姿勢の人が増えています。これでは呼吸が浅くなって、呼吸に関連する筋肉群である“呼吸筋”の柔軟性が失われ、体の隅々の細胞も元気がなくなってしまいます」

そう話すのは、ハーバード大学医学部で内科学の最先端領域を研究している根来秀行先生。根来先生は正月に開催された箱根駅伝で見事優勝した青山学院大学の陸上部をはじめ、多くのトップアスリートのアドバイザーも務めている。

「肺に取り込まれた空気は肺胞へ送り込まれ、毛細血管を通じて体の隅々の細胞に送り込まれます。そして、細胞が酸素と栄養素を受け取る“細胞呼吸”をした後、不要となった二酸化炭素は吐き出されます。このように、隅々の細胞がきちんと呼吸できていて、十分に酸素が行き届いていると、免疫力が高まります。さらに、呼吸筋の一部で、腹式呼吸で使われる横隔膜は、毛細血管が張り巡らされていて、自律神経も集まっているところです。横隔膜をゆっくり動かすと自律神経のうち副交感神経が優位になり、全身の毛細血管が緩み、細胞呼吸が行いやすい状態となります」(根来先生・以下同)

ところが、猫背など姿勢が悪い状態がクセになると、胸で小さく呼吸する胸式呼吸になり、呼吸筋が硬くなり、呼吸の効率が悪くなる。すると、体の隅々の細胞で細胞呼吸が十分できなくなり“隠れ酸欠”の状態に陥ってしまうという。細胞の呼吸不足は自律神経の乱れにつながってしまう。

根来先生が呼吸に注目するようになったのは、生活習慣病に悩む患者さんの診療にあたっているとき、その多くが睡眠不足に悩んでいたことに気づいたことがきっかけだという。

「良質な睡眠を毎晩とれている人がとにかく少なかったのです。そして、その患者さんたちに共通していたのは、みなさん呼吸が浅かったという点。呼吸が浅いと、緊張状態が続くので熟睡しにくくなるのです。睡眠不足は免疫力の低下を招き、かぜをひきやすくなるだけでなく、高血圧や動脈硬化をはじめ、あらゆる体の不調にも関連します。そのためにも、しなやかな呼吸筋を維持することはとても大切です」

そこで先生が推奨するのが、“呼吸筋ほぐし”。これは意識的に深い呼吸をすることで、呼吸筋を動かすものだ。

まずは基本の「4・8呼吸法」から。4数えながら吸い、8数えながら吐く。呼吸筋の横隔膜を上下させるのがポイントだ。

【4・8呼吸法】 (1)姿勢を楽にしてイスに座り、鼻から軽く息を吐く。手を軽くおなかに添えるとおなかの動きを感じやすい。 (2)おなかをふくらませながら4秒かけて鼻から息を吸う。おなかが数センチくらいふくらむようにしっかり吸い込む。 (3)肛門→恥骨→へそ→横隔膜とチャックを閉めるイメージで、おなかをへこませつつ8秒かけて鼻から息を吐く。(2)、(3)を気分が落ち着くまで繰り返す。

「さらに、『4・8呼吸法』の吸う−吐くの合間で4数えて呼吸を止める『4・4・8呼吸法』は、間で息をとめることで、より確実に酸素が細胞まで届くようになり、いっそう効果的です」

睡眠前には「寝たまま腹式呼吸」がおすすめだ。

「この呼吸法は入眠作用があるだけでなく、リンパを流す作用もあるので、翌朝起きたときに体がスッキリしていると感じられるはずです」

【寝たまま腹式呼吸】 (1)あおむけに寝て膝を立て、胸とおなかに手を置く。あごを軽く引き、鼻から息を吸い込む。無理におなかを膨らませようとせず、入ってくる息にまかせる。 (2)おなかの力を緩め、鼻から息を吐き、おなかがへこむのを手でたしかめる。肛門→恥骨→へそ→横隔膜とチャックを閉めるイメージで、長くゆっくりと、同じペースで息を吐く。

夜中、ふと目が覚めてしまったら、「10・20呼吸」を。

「10数えながら下腹に息を入れるイメージで鼻から空気を吸い込み、20数えながら息を吐き出す方法です。行っているうちに自然に眠りに戻れますし、睡眠ホルモンのメラトニンの材料となるセロトニンが分泌され、質のよい睡眠にもつながります」

これらの呼吸には、腹筋を鍛えられるという効果もあるそうだ。

「深い呼吸は1分程度でも十分効果を得られますが、頻繁に行えば行うほど好ましいです」

呼吸筋をしっかりほぐして、隠れ酸欠を防ぎ、かぜやウイルスを寄せ付けない体をつくろう。

「女性自身」2020年2月25日号 掲載