9月台風シーズンに患者が急増する「雷雨ぜんそく」の脅威! 健康な人でも突然発症する
「長期的な温暖化に伴う水蒸気量の増加傾向の影響で雨量が増大した可能性がある」
気象庁・異常気象分析検討会は、6月から7月後半にかけての「大雨事例」と7月後半以降の「顕著な高温」の分析結果を、8月28日にこう発表した。
今夏の猛暑について「異常だった」と記者会見でも認めたのだ。
同庁の「1か月予報(〜10月1日)」では、東日本太平洋側、西日本、沖縄・奄美で、「平年より降水量が多い確率が40%ある」と8月31日に発表されていた。
このような異常気象のなかで迎える本格的な台風シーズン。
おやなぎアレルギークリニック院長であり、アレルギー専門医の小柳貴人さんは、意外な疾患に「備える必要がある」と話す。
「古くから台風が通過した翌日には『ぜんそく』の患者さんが増えるといわれてきました。特にこの9月以降、台風のほか、ゲリラ豪雨も含めた『雷雨ぜんそく』には注意が必要です」
この耳慣れない「雷雨ぜんそく」とは、一体どんな疾患なのか。誰でもかかりうるものなのだろうか。
過去、世界を見渡せば「大発生して複数の死亡者が出たこともある」という雷雨ぜんそくについて、その特徴や、私たちにできる対策を小柳さんに聞いた。
「まず、一般的なぜんそくの症状は、口から吸い込んだアレルギー物質が、気管支の表面の粘膜に付着することで起こります。
すると粘膜が炎症を起こして腫れ、空気の通り道が狭くなり、呼吸しにくくなってしまいます。
そのため、咳が止まらなくなったり、ゼーゼー、ヒューヒューというぜんめいが起きたりして、重症化すると呼吸困難になってしまうのが、ぜんそくです。
最悪の場合、痰が詰まって酸素が行き届かなくなると、『ぜんそく死』もありうる。特に高齢の方に多いんです」
このぜんそくの原因となるものはさまざまだが、
「最も多い原因は、ダニの死骸などのハウスダストを吸い込んでしまうことです。
台風のあとにぜんそくが多く発生する理由ははっきりとは解明されていませんが、その原因として、台風通過前後の気圧差による反応や、空気中に粉じんが巻き上がるということも考えられるでしょう」
海外では、雷雨の後に雷雨ぜんそくが大発生した事例もあると語る小柳さん。
「オーストラリアで’16年、強い雷雨が発生し、直後からぜんそく発作で治療を受けた人が、なんと1万3千人に達しました。なかには重症者もいて、最終的に9人の死者が出てしまったんです」
このオーストラリアでの雷雨ぜんそくの大発生は、イネ科の植物の花粉がおもな原因とされたのだという。
「普通、花粉の粒子は大きいので、吸い込んでも目や鼻、喉の粘膜に付着するまで(花粉症の発症)でとどまるのがほとんどです。
しかし雷雨や豪雨などで水分を含むと、花粉は膨張して破裂し、粉々になります。その細かくなった粒子を吸い込んで気管支まで入ってしまうことが、雷雨ぜんそくの一因になるのではないかと考えられます」
この、花粉由来による雷雨ぜんそくが、日本で大発生する可能性はどれくらいあるのだろうか。
「日本で春に大流行するのはスギ花粉による花粉症で、成人の3〜4割程度の方にスギ花粉症があると考えられます。
イネ科植物の花粉症の患者はスギ花粉症よりも少ないですが、私が診察してきた肌感覚では、スギ花粉症の10分の1ほどの患者数ではないかと推測しています。
その方々を中心に、今後、日本でも雷雨ぜんそくにかかる方が出る可能性は十分あるでしょう」
実際に、台風や豪雨などのあとにぜんそくの症状で小柳さんのクリニックに来院した雷雨ぜんそくが疑われる人のうち「一定数は、以前にぜんそくがなかった方なんです」と小柳さん。
健康な人でもある日突然、雷雨ぜんそくにかかることもあるのだ。
「異常気象によって台風や豪雨、雷雨が増えれば、雷雨ぜんそくのような症状の方が激増してもおかしくない。特にこの秋は注意したほうがいいでしょう」
来院してぜんそくと診断された人には、内服薬や吸入薬などを用いた外来通院治療を開始することが多いという。
では、私たちが雷雨ぜんそくにならないためにできることとはなんだろうか。
「まずは、マスクを着用することです。コロナ対策でポピュラーになったサージカルマスクや、N95マスクなどは、雷雨などによって粉々になった微細な花粉でもある程度ブロックできます。
次に、雷雨の日や、台風通過の翌日は、できるだけ不要な外出を避けることです」
まずは、この2つの予防法から始めて、台風や豪雨だけでなく、雷雨ぜんそくにもきちんと準備をしておこう。