「(温泉旅行で)宿泊した部屋がものすごく乾燥していたんですね。2台くらいその部屋に加湿器をたいていて……帰りに明らかにふつうの風邪ではないコホコホというような咳が出始めて……」

11月22日、FNNプライムオンラインにそう語ったのは、女優の矢沢心(42)だ。矢沢は、発熱はなかったが咳や痰が止まらず、薬を飲んでも効果がなかったため、病院を受診したそうだ。

「レントゲンを撮ってもらうと(咳のしすぎで)肋骨の右側が2本、ヒビが入っていて、左が1本ヒビが入り骨折もしていると……」

最終的に医師から告げられたのが「加湿器肺炎」という耳慣れない病気だったという。

神奈川県にある横浜鶴見リハビリテーション病院の吉田勝明院長が、こう説明する。

「加湿器の中に発育したカビや、レジオネラ菌などを吸い込むことで起きるのが、この『加湿器肺炎』です。症状は、風邪や通常の肺炎に似ていますが、過去にはこの加湿器肺炎が原因で死亡した事例もある、注意すべき疾患なんです」

健康のために入れたスイッチが加湿器肺炎をもたらし、死に至る事例の報告もあるというのでは、なんとも恐ろしい。



■正体はアレルギー性肺炎

そこで吉田先生に、加湿器肺炎のメカニズム、治療法と予防法、そして正しい加湿器の使い方を教えてもらった。

「加湿器肺炎は、専門的には過敏性肺臓炎というアレルギー性肺炎の一種です。肺や気管支がカビなどによるアレルギー反応を起こすことで、加湿器肺炎の原因になると考えられています。’07年には汚れた水を使った加湿器が原因でレジオネラ肺炎を起こして死亡した60代の男性の事例があります」

国立感染症研究所の発表でも、’17年12月から’18年1月までに大分県の高齢者施設で、80代男性2人と90代男性1人が肺炎になり、90代男性が死亡し、加湿器からレジオネラ属菌が検出されたことが報告されている。高齢者以外でも、’00年に新生児2人が加湿器による肺炎にかかったという事例の報告もある。

加湿器肺炎の症状は、発熱、咳、息苦しさなど。これらは風邪や通常の肺炎と同じだが、原因となるのはカビなどによるアレルギー反応だ。そのため、風邪薬や、通常の肺炎の治療薬である抗菌薬(抗生物質)では効果がないという。

「風邪薬を飲んでも治らず、健康のためにと加湿器をそのまま使い続けていると、症状は改善せずに悪化し、重症化する恐れがあります。矢沢心さんの例のように、咳をしすぎて骨折などということも考えられる。日ごろは基礎疾患がない方でも、インフルエンザにかかった後などで免疫力が低下しているときには、特に注意が必要になります」

しかし病院やクリニックで受診しても、現状では医師のほうから「加湿器を使っていませんか?」といった、加湿器肺炎を想定した問診は、多くはないそうだ。

「そのため、風邪や通常の肺炎と判断されて、風邪薬や抗生物質を出されても、治らないということになります。昨今の報道などで、加湿器肺炎が気になっている方は『加湿器を使ったときに、とくに咳き込んだりします』などと病院で言ってみるといいでしょう。医師も加湿器肺炎の疑いに気づいて、対処してくれるかもしれません」

では、加湿器肺炎にかかってしまった場合、どんな治療法があるのだろうか。

「病院では、加湿器肺炎が疑われた場合は入院してもらい、加湿器のカビから隔離させるなどの処置を考えます。重症者はステロイドの処方でアレルギー反応を抑えることもあります。軽症の方の場合は、原因となっているその加湿器の使用をやめれば、加湿器肺炎は自然に改善し、治癒するでしょう」

症状を引き起こさないために、加湿器はどんな使い方やお手入れをすればいいのだろう。

「乾燥しているこの時季、適度な湿度を保つために加湿器を使うのは大事なことです。ただ、水道水にレジオネラ菌などが混入している場合もありますので、水を沸騰させて蒸気をつくるスチーム式加湿器を使用しましょう。超音波式や気化式の加湿器を使う場合は、タンクの水がそのままエアロゾル(微粒子)となって室内の空気中を漂うことになるので、水はなるべく蒸留水を使い、タンクの内側は、こまめに洗浄しましょう」



■加湿器はきちんとメンテナンスを

最後に、吉田先生がこんなアドバイスをくれた。

「カビ自体の病原性は弱く、肺に直接炎症を起こさせるほどのことはないと思われます。しかしカビで肺や気管支がアレルギー反応を起こせば、死亡リスクがある加湿器肺炎になる恐れがあることを忘れずに。新型コロナはもちろん、患者数が増えているインフルエンザなどの予防をしながら、加湿器もきちんとお手入れすることで、加湿器肺炎も予防しましょう」

清潔な状態で正しく使えば、冬の乾燥を和らげることができる加湿器。これを機に、一度自宅の加湿器の状態をチェックしてみよう。