もはや一般名詞となったパワーハラスメント(パワハラ)という言葉。パートだから、厳しい職場じゃないから、自分には無縁と思っているあなた。もしかしたら、被害者や加害者になっているかもーー。

「何がパワハラに当たるのかは、これまでガイドラインしかありませんでしたが、今回の法律で、国がパワハラの具体例を示したことは、大きな一歩です」

そう語るのは、労働問題に詳しい笹山尚人弁護士。6月1日から「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)が施行される。まず、大企業を対象にパワハラ防止措置が義務付けられ、’22年4月には義務化の対象が中小企業にも広がることになる。これで職場でのいじめや嫌がらせはなくなるのだろうか?

「違反があれば、国が指導しますが、それでも従わない場合には企業名が公表されます。企業は“ブラック企業”というイメージがつくのを避けるための対策に本腰をいれるでしょう。また労働者も法律を把握して被害者にならないことも重要ですが、気づかないうちに加害者にならないように注意が必要です」

そこで笹山先生が、ケースごとにパワハラの“境界線”を解説。

【ケース1】“不妊治療中”とバラされる

現在、不妊治療中です。病院に行くために、どうしても休みたい日ができたので、上司に打ち明けたところ、快く休みをもらえました。そこまではよかったのですが、翌日に出社したら、職場の人が、私が不妊治療中だということを知っていたのです。私が休んだ理由を聞かれて、上司は普通に答えてしまったそう。これって、どうなの?(E美さん・38歳、家電メーカー・事務)

「私的なことに過度に立ち入ることはパワハラに該当します。とくに不妊治療は今回の法律でも具体例としても取り上げられている“機微な個人情報”。交際相手や家族のこと、性的指向や性自認など、他人に明かしたくないことは存在します。そんな個人のプライバシーを本人の同意なく、公にするのは、人格権の侵害になります」(笹山先生・以下同)

【ケース2】叱責の言葉が共有される

上司のA部長は、部下を叱責するときは部署のメンバー全員が参加している社内のSNSを使います。「業務成績が悪いのはなにも考えていないからだ」「契約が解除されたのはお前の態度に問題がある」などと、SNS上では毎日のようにA部長が誰かを叱るコメントが飛び交います。部長は「みんなで問題点を共有するためだ」と主張していますが、これってパワハラじゃないでしょうか。(B子さん・35歳、金属加工メーカー・営業)

「特定の部下を、多くの同僚が見ている前で激しく叱責することは、相手の人格を侵害するパワハラになる可能性が高い。これはメールやSNSのメッセージも例外ではありません。相手を罵倒するような内容のメールやメッセージを、その相手以外の複数の社員に宛てて送信することもパワハラに当たるのです。叱責の内容にも問題があります。「業務成績が悪い」「契約解除はお前の態度が悪いから」となっていますが、すべて社員に責任転嫁できるかどうか疑問です。反論できないような状態で、一方的に大勢の面前で叱りつけるのは、ただの見せしめ。このような行為は、社員の人格を否定するものです。このケースと同じように、多くの人に、特定の部下を叱るメールを送った上司がパワハラで訴えられた判例があります。加害者である上司は『会社を辞めろ』という退職勧告もあったことで、最終的に損害賠償責任が認められました。人の気持ちを逆なでする表現があることや職場の部員に送信することで、叱られた人の名誉や感情を毀損します。もし、このようなSNSのメッセージやメールでパワハラされたときは、証拠として残しておくことが重要です。SNSを通じたパワハラ行為が増えています。上司が部下のプライベートのSNSを監視して、内容を批判することなどもパワハラになる可能性があるので、注意が必要です」

【ケース3】上司をみんなで無視

曖昧で、チーム内を混乱させてばかり。チームのメンバーで課長を無視したり、聞こえるように悪口を言ったりするようになりました。A課長は困り果てているけど、パートより高い給料をもらっている上司だから、そのくらいは我慢してもらわないとね。(F絵さん・53歳、総菜製造業・パート)

パワハラ防止法で定められた「優越的な関係を背景とした」パワハラは“上司から部下”だけではないと解されています。つまり“同僚から”“部下から”のパワハラもありえるのです。とくに集団の行為は違法性が強くなります。このケースのように、チーム全員で上司を無視したり、悪口を言ったりするのは、あきらかに一線を越えています。実際に、雇用関係では立場が弱いはずの非正規の人が、束になって、非正規出身の正社員をいじめてパワハラとみなされた例もありました。雇用の種類に関係なく、人格を否定するような行為をすれば、パワハラに該当します」

しっかり学んでパワハラのない社会を作ろう。

「女性自身」2020年6月9日号 掲載