「私の座席の目の前で、4回転半の練習を始めたんです。私のほうに向かって跳んできたので、あまりの高さとスピードに圧倒されました」(目撃した観客の女性)

ファンを大興奮させたのは、羽生結弦(26)。4月17日、国別対抗戦のエキシビション前日の公開練習で、4回転半ジャンプ(4回転アクセル)に挑戦したのだ。

「誰も成功させたことのない4回転半ですが、羽生選手はそれを跳びたいと、ずっと話してきました。(来年開催予定の)北京五輪よりも4回転半成功のほうが大切な目標だ、と明言しているほどです。公の場での4回転半練習は、’19年12月の海外での公式練習以来で、国内での披露は初。今回は12本挑戦しましたが、回転が抜けるか転倒するかで、1度も成功しませんでした」(スポーツ紙記者)

苦闘を目の当たりにした冒頭の観客の女性は続けてこう語る。

「転んだときの衝撃音がドスンとものすごくて怖かったです。ケガをしてしまうんじゃないかとハラハラしました。それでもあきらめずに何度も挑戦していて……」

あえて公の場で30分間も4回転半を跳び続けた理由を、元フィギュアスケート選手で、現在は解説者や指導者として活躍する本田武史さんはこう解説する。

「試合会場であったり、ほかの選手がいるところで跳ぶことでモチベーションも上がります。奇跡が起きて成功することも多いんです」

現時点の羽生の4回転半の完成度は? そしていつ完成するのか? 本誌は識者たちに公開練習の様子から分析してもらった。

まず、フィギュアスケート評論家の佐野稔さんによれば、

「完成度は70〜80%くらいではないでしょうか。改善点は、軸の曲がりを直すこと。もう少し高さが必要だと思います」



■「夏までに成功するのではないでしょうか」

現役時代、日本人として初めて競技会で4回転を成功させた経験をもつ前出の本田さんは、

「まだ回転が足りていないです。完成度は7割くらいですかね。ただ本人は“(ふだんの練習では)もっといい”とも言っていましたね。不思議なことなんですが、突然跳べちゃうこともあるんですよ。今回の回転速度などを見ると、うまくはまったときには『うわっ、成功しちゃった!』ということが起きることはあると思います。練習の雰囲気、集中力、体の調子、それらがピタリと合えば、夏までに成功するのではないでしょうか」

練習で成功したとしても、羽生本人が「まずは着氷させて、完成度を上げて、試合に組み込めるようにしたい」と話したことがあるように“4回転半を組み込んだ完成された演技”が最終目標となる。

プログラムに組み込む難しさについて、元五輪代表で現在は日本スケート連盟のナショナル審判員でもある小川勝さんはこう語る。

「練習で7〜9割は降りられていないと試合では使えないでしょう。現状を見ると、プログラムに入れた場合、成功しても失敗しても全体が崩れそうです。4分間つなぐ必要のある緊張感が、1回のジャンプで途切れるリスクがあります」

練習過程でのケガの心配もあると、識者たちは口をそろえる。

「焦ってケガをするのがいちばん怖いですね」(佐野さん) 「体にすごく負担がかかるジャンプですから」(本田さん)

選手としては、ベテランといえる26歳。自らも「年だな」「体動かなくなった」と感じたこともあるというなか、羽生は肉体を限界まで酷使して挑んでいるのだ。

「女性自身」2021年5月11日・18日合併号 掲載