車いすテニスの国枝選手が引退 競技者人生に影響を与えた“2人の女性”
「家に帰って『もう無理だな』『もう試合に間に合わない』『もう引退だな』とか、そういうのを吐き出せる場所があったのは競技の助けになった」
「テニス選手は世界中を回っていて孤独だが、妻がいてくれるだけで、ホテルに帰れば家のようなアットホームな空気が流れる。それだけでも、オンとオフを切り替えられるのはすごく助けになった」
9歳の時、脊髄腫瘍による下半身麻痺のため車いす生活を送ることとなった国枝選手。11歳で車いすテニスを始めると才能が開花し、’09年4月には日本パラアスリートとして初めてプロに転向した。
「パラリンピックでは’21年に開催された東京大会を筆頭に、シングルスで3つの金メダルを獲得。さらに昨年7月、ウインブルドンでシングルス優勝を果たしたことで、車いすテニス男子シングルスで初となる生涯ゴールデンスラム(四大大会とパラリンピックを制覇)を達成しました。国枝選手は車いすテニス界の第一人者といえる存在です」(スポーツ紙記者)
ラケットに「オレは最強だ!」と書いたテープを貼っていることでも知られる国枝選手。タフでパワフルなイメージだが、しかし引退会見では冒頭のように自身の弱さを告白。そして、競技者人生の支えとなった妻・国枝愛さんへの感謝の気持ちを明かしたのだ。
■愛さんが国外大会を帯同を決意した、国枝選手の弱音
愛さんと国枝選手は、パラリンピック・アテネ大会が開催された’04年から交際をスタート。’11年に結婚し、2年後の’13年に愛さんはスポーツ選手に適格な食事を提供する民間資格「アスリート・フード・マイスター」を取得している。
「野球の田中将大投手(34)と’12年に結婚した里田まいさん(38)がアスリート・フード・マイスターの資格を持っていると知り、愛さんは『美味しそうだし、取ってみようかな』と軽い気持ちで勉強を始めたといいます。しかし、今やその知識は国枝選手の生活になくてはならないものですし、SNSで発信する食事の様子も大好評です。
愛さんのこだわりは『サラダや汁物には多くの食材を使うこと』。また、夫婦が暮らす千葉で採れた野菜や栄養価の高い旬の食材も活かすようにしているそうです。国枝選手は料理の感想をあまり言わないそうですが、インタビューでは食事の重要性を語ることも。その度に、愛さんはやりがいを感じているといいます」(前出・スポーツ紙記者)
’17年から国枝選手の国外大会にも帯同するようになった愛さん。そのことについて、国枝選手が電話で「やっぱり(手術した)ひじが痛い。引退しなきゃいけないかも」と弱音を吐いたことがきっかけだったと’21年5月に「朝日新聞デジタル」で明かしている。
「’16年に右ひじを手術した国枝さんはパラリンピック・リオデジャネイロ大会の後、4ヵ月ほど休養しました。それでも痛みが消えなかったため、思わず練習後、愛さんに弱音を吐いたそうです。愛さんも動揺したものの、『だからこそ、もっとそばにいよう』と国外帯同を決意したといいます。
国枝さんはメンタル面で繊細なところがあり、プレッシャーに負けそうな時、睡眠導入剤に頼ることもあるといいます。いっぽう愛さんはそれほど勝つことにこだわる姿を尊敬しており、一緒にいることで貴重な経験をさせてもらっていると国枝さんに感謝しているそうです」(テレビ局関係者)
■「母に無理やりテニスコートに連れられたのが始まり」
そんな心身ともに支えた愛さんの他にもう1人、国枝選手のテニス人生に大きな影響を与えた女性がいる。それは、母親の珠乃さんだ。
「国枝さんが車椅子生活を始めたのは9歳の時。もともと国枝さんは少年野球チームに入るなど活発な子供だったため、その落ち込みようは相当なもので珠乃さんは心を痛めたといいます。それに、車椅子では外遊びの内容が限られるという懸念点もありました。
そこで珠乃さんは自宅にバスケットボールのリングを置き、遊びに来た友達にお菓子や飲み物を振る舞うことに。すると、徐々に国枝さんも元気を取り戻していったといいます」(前出・テレビ局関係者)
ターニングポイントは、その2年後だった。国枝選手は「母の趣味がテニスで、(11歳の時)テニスコートに無理やり連れられたのが始まりでした。そこで車いすテニスを必死になって始めました」と引退会見で明かしている。
「国枝選手はテニスのルールすら知らなかった上に、当初は難しいスポーツだと感じ、好きにはなれなかったそうです。しかし1年後、試合の一回戦で負けたことが悔しくなり火がつくことに。高校1年生の頃には国際大会を制するほど夢中になり、そして引退まで駆け抜けて華々しい戦績を残しました」(前出・スポーツ紙記者)
男子テニス界のレジェンドであるロジャー・フェデラー(41)からも「日本には国枝がいる」と讃えられていた国枝選手。愛さんも珠乃さんも今、誇らしい気持ちでいるはずだ。