インスリン治療が欠かせない1型糖尿病患者の補助治療としてSGLT2阻害薬が注目されている。「スーグラ」(一般名:イプラグリフロジン)に続いて「フォシーガ」(ダパグリフロジン)も1型糖尿病の効能追加が2019年3月に認められ、臨床現場で使用するケースが広がっている。製造販売元のアストラゼネカはフォシーガについてさらなる適応拡大を目指し、慢性心不全/慢性腎臓病患者を対象とした国際共同試験も進めている。SGLT2阻害薬は糖尿病治療の枠を超え、どこまで多くの患者の予後を改善する可能性を持っているのか。アストラゼネカで循環器・腎・代謝疾患領域の開発を担当する皿井伸明医師に話を聞いた。

――「フォシーガ」(ダパグリフロジン)の1型糖尿病への適応拡大が承認されましたが、あくまでもインスリン製剤との併用で使用するのが条件ですね。

皿井 インスリン治療で血糖コントロールが不十分な患者さんの補助治療として使用する、ということで承認されました。

 1型糖尿病は長い間、インスリン治療以外の選択肢が限られている状況でした。ダパグリフロジンはインスリン作用に依存せずに血糖を下げるという作用機序があるので、「1型にも使えるようにしてほしい」という強い要望が医療現場の間で以前からあり、適応拡大に向けて開発を開始したという経緯があります。

■低血糖やDKAを管理しながら開発

――開発のプロセスの中ではどのようなハードルがありましたか。

皿井 当初、「本当に1型糖尿病の治療薬として成り立つのか」というところでいろいろな議論がありました。1型糖尿病の患者さんはインスリンの投与が絶対必要ですし、インスリンの投与量が多すぎても少なすぎても深刻な有害事象が起こる可能性がある。その中で、余剰な糖を尿中に排泄して血糖を下げるSGLT2阻害薬という薬剤が患者の血糖コントロールに本当に有用なのか、という議論が重ねられ、最終的に低血糖やDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)をしっかり管理しながら開発することが重要という結論に至りました。

 臨床試験は、インスリン製剤の投与量を適切に調整しながらフォシーガの併用を続けるというデザインにし、フォシーガ併用開始時に低血糖予防のために必要と考えられた場合は、インスリン製剤の減量を20%以内で検討するという大まかな基準だけ設けました。

 患者さんには症状の有無にかかわらず低血糖に関するすべての事象を報告していただき、きめ細かくデータを評価することにしました。DKAに関しても、予防の観点から血中のケトン体を自己測定できるようにし、閾値を超えた場合には医療機関に連絡していただくという体制をとりました。

 新しい治療法ですので、効果が期待できる半面、リスクもあるだろうということで、専門の先生方の理解を得るのにも当時の担当者は苦労したようです。