■バイオマーカーの開発へ

――いまはどのような課題に取り組んでいるのですか。

松井 今回の研究を、抗がん剤誘発心毒性を早期に発見するバイオマーカーの開発に活かしたいと考えています。それに成功すれば、バイオマーカーを指標にした創薬研究も可能になると思っています。

篠澤 私たちのチームは、ヒトiPS細胞だけでなく、AIなども含め新しいテクノロジーを活用し、医薬品研究開発のできる限り早い段階でヒトにおける副作用を把握できるようにしたいと考えています。

 臨床試験においてはフェーズ1で被験者の方に薬を服用してもらいますが、ヒトに投与する段階ですので、そこで副作用が起きてはいけない。その意味で私たちの研究は最後の砦だと考えています。

――抗がん剤に限らず、あらゆる領域でヒトを対象とした臨床試験に入る前にリスクを予測し、安全性の高い新薬開発を進めるのは意義のあることですね。

篠澤 画期的な新薬の開発を進めていても、臨床試験で100人に1人、1000人に1人に毒性が出て開発を中断するというケースがよくあります。その結果、有望な薬が多くの患者さんに届かず、長期間待たせることになり、企業にとっても開発費用が膨らんでしまうことになります。その意味でも、治験に入る前にリスクを予測することは大きな意義があると思っています。

■副作用が出やすい人を見極めるツールを

――将来的にここまで成果を出したいという目標はありますか。

松井
 抗がん剤を投与するときに、この患者さんは構造変化が起こりやすい、構造変化が起こりにくいという判断が、その患者由来のiPS細胞を用いて事前に予測できるようになればいいなと思っています。

篠澤 同じ薬でも効きやすい人と効きにくい人がいるように、副作用も出やすい人と出にくい人がいる。そこを見分けられるようなツールもしくはバイオマーカーをつくっていきたいですね。

――今回の研究で、低濃度で構造異常が起こるという結果が出た抗がん剤でも、患者さんによって起こりやすさは異なるのですね。

松井 心血管系の既往歴のある患者さんや放射線治療を受けている患者さんは、化学療法が加わると心毒性を引き起こしやすいとよくいわれていますし、遺伝的背景も影響しているかもしれないという報告もあります。この分野の研究はまだまだ継続して積み重ねていく必要があると思っています。