中谷美紀が日本初の女性総理、田中圭が“ファーストジェントルマン”を演じるのをはじめ、貫地谷しほり、工藤阿須加、松井愛莉、片岡愛之助、余貴美子、岸部一徳ら豪華俳優陣が出演している映画『総理の夫』が全国公開中です。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 現実の世界では、なかなか道のりは遠いが、もしもこの映画の主人公・相馬凛子(中谷美紀)が日本初の女性総理になるのなら、最大限応援したいと思う人は多いだろう。

©2021「総理の夫」製作委員会

 先ごろ封切られた『キネマの神様』に続いて、原田マハ原作。それを『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』や『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の河合勇人監督が映画化。

 なぜ、「凛子サンなら、総理に押したい」のか? とても政治家とは思えないエレガントさにあふれたその物腰、話し方、声のトーン……。耳に優しくて、とにかくすべてが美しく心地よく魅力的! 誰もがファンになってしまう、素敵なキャラクターだからじゃないかと思うのだ。

©2021「総理の夫」製作委員会

 もちろん、政治に対しする姿勢には一本筋が通っていて、優しくエレガントなだけじゃなく、言うべきことは言い、決断も早い。今、何が必要で、何をなすべきかのジャッジが的確。それは国政においても、私生活においても同じで、ぶれない。

「あぁ、本当にこんなトップなら国民も幸せだろうな」と、聡明で美しい凛子を、ファン目線で追いながら観ていたら、いつしか、凛子を演じる女優・中谷美紀の実人生の生き様がオーバーラップした。いつも一緒にいなくても、お互いが自立し、いい夫婦関係を築く……。

 私生活での夫は、ドイツ人のティロ・フェヒナー氏。ウィーン・フィルのビオラ奏者で、オーストリアのザルツブルグ在住。彼女は日本とオーストリアを行き来しながら暮らすという、夫婦のライフスタイル。

 夫の“Life is too short”(人生はあまりに短い)という言葉によって「人生は楽しむためにある」という、当たり前のことに気づいたという。実に伸びやかに、自然に、楽しんで人生を生きる素晴らしいカップルなのだ。

 一方、映画の中での夫、相馬日和(田中圭)は、大財閥の次男坊で、鳥類研究所に勤めるただの鳥オタクだったはずなのに……。携帯の電波も届かない僻地まで鳥を追って出張し、帰ってきたら、凛子の総理就任によって知らないうちにファーストジェントルマンになってしまっていたという、何とも浮世離れした巻き込まれ型のキャラクター。

©2021「総理の夫」製作委員会
©2021「総理の夫」製作委員会

 結婚12年目。すれ違いながらも、互いを信じあいそれぞれの道を歩み、ちゃんと支え合っている二人。

 おいしい朝食を作り、優しく妻を起こす。女性が社会的な成功を収めるために、パートナーの男性が果たすべき役割は何かを、自然と理解して実践している素晴らしい夫。妻が仕事に忙殺されても、決して、「ボクと仕事とどっちが大事?」なんてバカなことは言わない。

©2021「総理の夫」製作委員会

 男女の区別なく、意欲のある人があらゆる分野で活躍できるのが理想の社会だが、世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数(男女格差指数)によると、日本は156の国と地域の中で、2020年は過去最低となる121位で、2021年は過去2番目に低い120位。男女共同参画社会の実現にはほど遠い現実なのだ。

 撮影中に、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相が事実婚のパートナーとの子どもを産み、世界で初めて、首相在任中に産休を取ったというニュースも飛び込んでくるなどタイムリーな話題もあった。凛子を支える内閣広報官の富士宮あやか(貫地谷しほり)がシングルマザーだったり、政界のドン(岸部一徳)に振り回されたり……と、現実社会にありそうな問題も織り込んだストーリー展開は、ある意味、決して夢物語とばかりは思えないリアルさで迫ってくる。

 理想の国のトップとは? 理想の夫婦の在り方とは?

 奇しくも現実に国のトップが変わるという時期なだけに、いろいろと考えてしまうが、「政治色よりもヒューマンコメディ、ハートウォーミングなドラマとして観てほしい」との監督の言葉通り、とにかく、すべての働く女性とそのパートナーにぜひ見てほしい作品だ。(増井孝子)

※ラジオ関西『ばんばひろふみ!ラジオDEしょー!』、「おたかのシネマdeトーク」より